「じゃ、俺、そろそろ行くわ」



そう言って、いーたんと別れてから一週間後、俺は舞織を発見したのでした まる

Honey Bunny Baby

「おんやぁ、人識くんじゃありませんかー」

「おっす」



舞織は公園のジャングルジムのってっぺんにいた。

夕日を背に背負っていて表情が見えないものの声色からして、ヘラリヘラリ と笑っているに違いない。


そんな抜けた声色のまま、舞織が言葉を放つ。



「わたし達、もう会わないんじゃなかったんですかー?」

「ん、気が変わったんだよ」

「男心と秋の空ですねー」

「おー、だからさっさと降りて来い」

「うふふ、降りたいのは山々なのですが、降りれないので手を貸して頂けませんかー?」

「………」



じゃあ何で登ったんだよ と言いたい文句を呑み込んで、舞織に向けて手を差し伸べてやる。



「ありがとうございます」

「ん……ってお前、手が……」

「手?手がどうかしたんですか?」



どうしたもこうしたも、差し伸ばした手に重ねられたのはきちんとした手の平だった。


んん、これじゃあ掌の無い方が当然のように聞こえるな。

確かこいつには別れ際には無かったんだ、手なんてものが存在してなかった。


手首から先を、スパン と切り落としたんだか落とされたんだか……だったよな…確か…



「ああ、付けてもらったんです」

「……ああ、そう」



さも当たり前のように言うから俺ってば遂にボケちまったかと思っちまったじゃねえか。

こいつ、殴ってやろうか とねめつければ、ふ とまた驚かされる。



「お前…その顔はどうしたんだよ」

「いやあ…これには深い事情がありましてー」



うふふ と頬を染める舞織。

…何故照れる。


呆れた俺を無視して微笑む舞織の顔は、至る所が傷だらけだった。

真新しいのから古いのから、擦り傷切り傷打撲傷…何でも来い、じゃなくて何でもありだった。



「長くても良いから話せ。いや…場所を移動しよう。どっか近くの…」



ぐうううううぅぅぅ………



「…………」

「…………」

「……お前…」

「うふふ。わたし、お風呂とトイレと食事付きのホテルが良いです」



表現しようのない感情が沸々と湧き上がってくる。

声にすらならないソレが堪らなく苛立たしい。


その上、ニコニコ とまるで誰かを連想されるその笑顔が更に苛立たしくて、グーで舞織の頭を殴ってやった。








ネコラジ(下)のページで言うと、P240辺りの後のお話。