室内に入ったと同時に舞織はベッドに突っ伏して、ピクリ とも動かなくなってしまった。


どうやら張っていた気が途切れてしまったらしい。

Honey Bunny Baby

起こさないよう足音を忍ばせて、そっと近づく、が、起きそうもない事が寝息からも伝わってくる。


舞織は目に見えて衰弱していた。

細身だった体は更に細く、頬の肉は削げ落ち、髪の艶もくすみがかり濁った色をしており、着ていた服もボロボロだった。


面倒だと放置した事が酷く悔やまれた。



「…ごめん な」



そっと頬を撫でて、小さく詫びる。



「……人識くんは悪くないですよ」



閉じていた瞳をうっすらと開けて、舞織はベッドに体を沈めたまま、そう答えた。



「起きてたのか」

「睡眠は浅いんです、わたし」

「そうか」

「です」



舞織がうつ伏した隣に仰向けに寝転んだ。

ふかふか のベッドに体が吸い込まれる感覚、ちょっと恐怖。



「…もうじき風呂も沸くし、夕食も届く」

「何から何までありがとうございます」

「ああ、いや…いいよ、別に。兄貴に頼まれたし…やっぱ放置しちゃマズイだろ」



一応可愛い可愛い妹だしな と言って舞織の髪を乱雑に掻き交ぜた。


嫌がるかと思いきや、大人しく撫でられる。

その表情は何だか複雑そうだった。



「どうした?」

「…………妹なら」

「え?」



言おうか言うまいか 戸惑って、それから意を決して口が開く。



「妹ならどうして――」



コンコン――



「汀目様、お夕食をお持ち致しました」



ノックとドア越しの声。

言うまでもなく、ボーイだ。



「ん、ああ、自分で運ぶからそこ置いといて」

「畏まりました」



礼儀正しく見えもしない相手に一礼をしているのだろう。

それから程なくして足音が遠ざかっていく。



「…っよっ と」



人識は、ガバ と起きて、ドアを開けてカートを部屋の中へと引っ張りこんだ。



「食べようぜ」

「…わたし、あんまりお腹空いてないですよ」

「食べてないからだろ。色々話さなきゃいけない事もあるし、途中で寝てもらっても困るんだけど」

「…体力付けなくちゃですか」

「ですよ ってか。かはっ 良いからお前も手伝え」

「あ、はい」



妹なら、一体どうして あの時わたしに―――――…?



そんな疑問、出せる雰囲気であるはずもなく。

舞織はゆっくりと起き上がって人識の方へと歩いていった。