輪郭 8
変に男前なところは相変わらず

意地を張り、頑なとして自分の心を開こうとしないのも相変わらず

けれど、婀娜めかしさだけは、会う度に、増している
輪郭
「っん…」



白い白い、雪のように白く決め細やかな肌に、唇を当ててキツク吸い上げれば、紅い花びらが一つ。



「…ッユン、見える、ところには…」

「分かってるよ」



小さな牽制を、はいはいと受け流して、首筋にもう一度、唇を押し当てた。

明らかにこれは見えるななんて心密かにほくそ笑んで、ソレを撫ぜる。



「…僕ね、会う度に、これが消えているのを見ると、凄く不安になるよ」

「……ど、して…」

「これが消えるのと同時に、ヨンサの僕への思いも消えちゃってるんじゃないかって…」

「っ、くだらな…い」



英士は、どこか、不快そう眉を顰めた。

くだらないくだらない…かもしれないけれど…


「俺ッ、は……っぁ…」

「ヨンサは、いつも冷静だったし、いつまでも僕に興味を持っていてくれるなんて、限らなかったから…何か、確かに存在するモノで、ヨンサを繋ぎとめておきたいと」



いつも思ってたよと、そんな真面目な話を吹っ掛けておきながら、手だけは、止まらずに止まらずに…



「…ッ、ユンッ、俺は…!そんな…っああ…!」



散々弄られた突起は、てらてらと妖しく光っていた。

ソレを指で摘めば、英士は悩ましげな声を上げて、体を弓形に反らせた。



「…こんな時にする話じゃなかったね。ごめん」

「ユン」

「…忘れてくれて、構わないから」

「ユンッ!」



少し大きめの声で、潤慶は漸く英士を見上げた。



「俺の話も聞いて」

「…うん」

「…俺はそんな一時の感情で、誰かとこういう事をする気はないよ」



大きく息を吸って、吐いて。

覚悟を決めたような瞳を、潤慶から逸らして、英士は気恥ずかしそうに言い放った。



「…」

「…ユン?」

「……ッヨンサァ〜ッ、僕、やっぱりヨンサのそういう男前なところ、大好き〜っ」

「ちょっ、情けない声出さないでくれる!?気色悪いよ!」

「酷いけど大好きーっ」



嬉しい

その一言がこんなにも嬉しいと


不安も一入だけれど

今だけは不安なんて、見て見ぬふりだと



「よぉっし、今日は僕、張り切っちゃうからねー」

「……張り切らなくて良いよ」



馬鹿だなんて言葉、何度浴びせられた事か分からないけれど、その言葉には棘なんてなくて、寧ろまるで英士の素肌のような柔らかさで、潤慶の鼓膜を擽った。






トントンと踵を靴に仕舞い入れていると、後ろから声が降ってきた。



「…本当に、行っちゃうの?英士起こしてこなくて良いの?」

「はい、ヨンサまだ寝てるみたいだから、起きるまで待ってあげて下さい」

「気を付けて帰りなさいね」



はいと微笑んで立ち上がる。

鞄を手渡されて、ドアノブに手を掛ける。



「そうだ。ヨンサに、跡が消える前にまた会おうねって言っておいて下さい」

「…あと?」

「約束の印です」

「……分かったわ、伝えておく」

「ありがとう」



タクシーが見えなくなるまで、手を振る英士の母の姿を見て、潤慶は、ふぅと息を吐いた。



「本当は笑ってる顔の方が良かったんだけどねー」



携帯を開いて、フォルダの中の一枚。

ぐっすりと眠る英士のその顔に、潤慶は、一人、笑みを隠せないでいた。