輪郭 4
「ご馳走様」
輪郭
「あら英士…またなの?」

「うん、体調が悪いわけじゃないんだけど…ごめん」



カチャンと箸とお椀とがぶつかって小さな金属音を立てた。

英士はまだ半分以上残るその夕食をシンクへと運び、リビングから姿を消した。



「お母さん、ヨンサ、ずっとあんな調子なの?」

「そうなのよ、ここ最近ずっと残しっぱなしで…あんまりに残すから量減らしたんだけど、それでも残すのよ」

「…具合でも悪いのかな」

「分からないわ、何も話してくれないから…潤慶、良かったらさり気なく…聞いてみてくれないかしら」



英士が出て行ったそのドアを見つめ、潤慶は味噌汁を流し込んだ。



「うん、聞くだけ聞いてみるね」

「ありがとう、助かるわ」

「ヨンサの事だから、僕にも話してくれないかも知れないけど…」

「あら…そんな事は無いと思うわ」

「どうして」



英士のお母さんは、ふふと意味深に笑って、誰もいないリビングで声を潜めた。



「私ね、英士から今日潤慶が来るなんて…聞かされてなかったの。でもね、何となくは感づいてたわ」

「ヨンサったら…で、どうして?」

「淡々としてるでしょ?あの子。でも最近は、たまに鼻歌歌ってたり、カレンダーを見て微笑んでたり…何だか、人間らしい英士を見ちゃったって感じよ」

「ぷっ、お母さん、仮にも息子に人間らしいって!あはは」

「だってそうでしょ。いっつも無表情で、誰に似たのか人形みたいに顔が整ってるし…」

「お母さんも十分人形みたいで美しいよ」

「ありがとう……とにかく…潤慶のお陰で可愛い英士を見る事が出来たわ。あんな顔、一馬や結人の時だってしないわよ。英士にとってあなたは特別なのね」

「……とくべ…」



ガチャ



「…二人して何こそこそしてるの?」



きょとんと瞳を開いて、というよりは訝しむように英士がドアを開けた。

お母さんはニコリと微笑んで平静を繕い、潤慶はただひたすら食べる事に集中した。



「何でもないわ。それよりお風呂?温まってきなさいね」

「分かってるよ。子供じゃないんだから」



詮索を諦めたのか、英士は短く溜息を付いてドアを閉めた。

そうして、廊下でドアが閉まる音。



「ご馳走様。僕もお風呂に入ってくるね」

「お粗末様、でも今英士が入ったばかりよ?」

「腹を割って話すには裸の付き合いが必要なんでしょ?日本って」

「……ええ、そうねっ」



英士がしたのと同じように、食器をシンクに運ぶ。


リビングを出る際に、バッチンとウィンクをかませば、英士の母は一呼吸置いて、ふわりと微笑んだ。