「ご馳走様」 輪郭 「あら英士…またなの?」 「うん、体調が悪いわけじゃないんだけど…ごめん」 カチャンと箸とお椀とがぶつかって小さな金属音を立てた。 英士はまだ半分以上残るその夕食をシンクへと運び、リビングから姿を消した。 「お母さん、ヨンサ、ずっとあんな調子なの?」 「そうなのよ、ここ最近ずっと残しっぱなしで…あんまりに残すから量減らしたんだけど、それでも残すのよ」 「…具合でも悪いのかな」 「分からないわ、何も話してくれないから…潤慶、良かったらさり気なく…聞いてみてくれないかしら」 英士が出て行ったそのドアを見つめ、潤慶は味噌汁を流し込んだ。 「うん、聞くだけ聞いてみるね」 「ありがとう、助かるわ」 「ヨンサの事だから、僕にも話してくれないかも知れないけど…」 「あら…そんな事は無いと思うわ」 「どうして」 英士のお母さんは、ふふと意味深に笑って、誰もいないリビングで声を潜めた。 「私ね、英士から今日潤慶が来るなんて…聞かされてなかったの。でもね、何となくは感づいてたわ」 「ヨンサったら…で、どうして?」 「淡々としてるでしょ?あの子。でも最近は、たまに鼻歌歌ってたり、カレンダーを見て微笑んでたり…何だか、人間らしい英士を見ちゃったって感じよ」 「ぷっ、お母さん、仮にも息子に人間らしいって!あはは」 「だってそうでしょ。いっつも無表情で、誰に似たのか人形みたいに顔が整ってるし…」 「お母さんも十分人形みたいで美しいよ」 「ありがとう……とにかく…潤慶のお陰で可愛い英士を見る事が出来たわ。あんな顔、一馬や結人の時だってしないわよ。英士にとってあなたは特別なのね」 「……とくべ…」 ガチャ 「…二人して何こそこそしてるの?」 きょとんと瞳を開いて、というよりは訝しむように英士がドアを開けた。 お母さんはニコリと微笑んで平静を繕い、潤慶はただひたすら食べる事に集中した。 「何でもないわ。それよりお風呂?温まってきなさいね」 「分かってるよ。子供じゃないんだから」 詮索を諦めたのか、英士は短く溜息を付いてドアを閉めた。 そうして、廊下でドアが閉まる音。 「ご馳走様。僕もお風呂に入ってくるね」 「お粗末様、でも今英士が入ったばかりよ?」 「腹を割って話すには裸の付き合いが必要なんでしょ?日本って」 「……ええ、そうねっ」 英士がしたのと同じように、食器をシンクに運ぶ。 リビングを出る際に、バッチンとウィンクをかませば、英士の母は一呼吸置いて、ふわりと微笑んだ。 |