ドクンドクン 心臓が跳ね上がる 嬉しさに、緊張に、不安に… 「あ、ヨンサーッ」 輪郭 ブンブンと手を振って笑顔を振りまく潤慶に、英士は静かに手を挙げてソレに答えた。 潤慶は人の隙間を上手い具合に擦り抜けて英士の所へと走る。 「迎えに来てくれたんだ!」 短く息を切らして、英士の手を取る潤慶は本当に嬉しそうで、不覚にも胸がドキリと跳ねた。 「…うん………一刻も早くユンに会いたくてね」 「えっ!?」 「嘘だよ」 「!!ヨンサァー!酷いよ!それは酷過ぎる!」 「はいはい。良いから早く家に帰ろう」 胸の高鳴りなど覚られたくなくて、普段は言わない軽口も今回ばかりは役に立ったようで。 出会い頭に、らしくない自分が早速現れてしまった事に眉を顰めつつも、感情の高鳴りを知られずに済んだと、英士は小さく安堵の息を漏らした。 「…どう?久しぶりの日本は」 「変わらないね」 「そう。ユンも…変わらない」 変わらない 変わらない? いや、変わったよ 背が伸びたし、顔つきが大人びてきた。 自分は、変われたのだろうか… ユンに、置いていかれないほどに、…前に進めているだろうか… 「あはは…でも、ヨンサは変わったよ」 「…どこが?」 頭を過ぎった疑問をまるで読んだかのような潤慶の言葉に、英士は言葉に期待の色が篭るのにも構わずに答えを急いた。 「美人になった」 「……あっそう」 期待するだけ無駄だった。 いつもいつも、期待させられる。 期待して、望む言葉は結局得られなくて… それでも、その言葉に嬉しささえ覚えてしまって、また、心臓が騒ぎ出す。 「皆元気してる?」 「さぁ。元気なんじゃない?」 「あはは、なにソレ」 手を挙げて。 停まったタクシーに乗り込んだ。 自宅の場所を告げて、走り出す。 「元気だろうけど…やっぱり変わりつつあるよ」 「…何が?」 「少しずつ…物事を隠すのが、感情を隠すのが、うまくなってる。もう、一馬の悩みにも気付いてやれない…」 「珍しいね、ヨンサの弱気発言」 「…そうだね」 「でも、…大丈夫だよ」 ぎゅうと手を握られる。 運転手にバレやしないか…ヒヤヒヤする英士に構わず、潤慶は微笑んだ。 「確かに皆、大人になっていくけど…でもそれで関係が終わる事も無くなる事も無いと思うよ。 カズマはいつまでもカズマで、ヨンサの友人のカズマだし、ユウトだって同じ。 僕だって、どんなに姿形、中身が変わっても、ヨンサの従兄弟で、こいび、むぐっ!?」 「その先は言わなくて良い」 「えー、一番言いたかった事なのに」 悪びれず笑う潤慶に、顰め面を向けるが、潤慶は変わらず微笑んだままだった。 「…それは、俺も同じ…に、…思って…る」 「………」 「…なに、その顔」 「いや、今日はやけにかわい……いや、うん、何て言うか…えへへ」 「何だよ、気持ち悪いな」 言葉を濁らせる潤慶を訝しみつつも、先程心に巣を作ったもやもやはいつの間にか消えていた。 礼など述べられない。 英士は、握られた潤慶の手を少しだけ、強く力を込める事でソレを示した。 あとはただ、窓の外。流れゆく景色を、ぼんやりと眺めていた。 反対の窓を見、珍しく頬を染めている潤慶にも気付かず、英士はいつしか睡魔の手に落ちていった。 |