輪郭 1
ドクンドクン

心臓が跳ね上がる


嬉しさに、緊張に、不安に…



「あ、ヨンサーッ」
輪郭
ブンブンと手を振って笑顔を振りまく潤慶に、英士は静かに手を挙げてソレに答えた。


潤慶は人の隙間を上手い具合に擦り抜けて英士の所へと走る。



「迎えに来てくれたんだ!」



短く息を切らして、英士の手を取る潤慶は本当に嬉しそうで、不覚にも胸がドキリと跳ねた。



「…うん………一刻も早くユンに会いたくてね」

「えっ!?」

「嘘だよ」

「!!ヨンサァー!酷いよ!それは酷過ぎる!」

「はいはい。良いから早く家に帰ろう」



胸の高鳴りなど覚られたくなくて、普段は言わない軽口も今回ばかりは役に立ったようで。


出会い頭に、らしくない自分が早速現れてしまった事に眉を顰めつつも、感情の高鳴りを知られずに済んだと、英士は小さく安堵の息を漏らした。



「…どう?久しぶりの日本は」

「変わらないね」

「そう。ユンも…変わらない」



変わらない

変わらない?


いや、変わったよ

背が伸びたし、顔つきが大人びてきた。


自分は、変われたのだろうか…

ユンに、置いていかれないほどに、…前に進めているだろうか…



「あはは…でも、ヨンサは変わったよ」

「…どこが?」



頭を過ぎった疑問をまるで読んだかのような潤慶の言葉に、英士は言葉に期待の色が篭るのにも構わずに答えを急いた。



「美人になった」

「……あっそう」



期待するだけ無駄だった。


いつもいつも、期待させられる。

期待して、望む言葉は結局得られなくて…

それでも、その言葉に嬉しささえ覚えてしまって、また、心臓が騒ぎ出す。



「皆元気してる?」

「さぁ。元気なんじゃない?」

「あはは、なにソレ」



手を挙げて。

停まったタクシーに乗り込んだ。


自宅の場所を告げて、走り出す。



「元気だろうけど…やっぱり変わりつつあるよ」

「…何が?」

「少しずつ…物事を隠すのが、感情を隠すのが、うまくなってる。もう、一馬の悩みにも気付いてやれない…」

「珍しいね、ヨンサの弱気発言」

「…そうだね」

「でも、…大丈夫だよ」



ぎゅうと手を握られる。


運転手にバレやしないか…ヒヤヒヤする英士に構わず、潤慶は微笑んだ。



「確かに皆、大人になっていくけど…でもそれで関係が終わる事も無くなる事も無いと思うよ。
 カズマはいつまでもカズマで、ヨンサの友人のカズマだし、ユウトだって同じ。
 僕だって、どんなに姿形、中身が変わっても、ヨンサの従兄弟で、こいび、むぐっ!?」

「その先は言わなくて良い」

「えー、一番言いたかった事なのに」



悪びれず笑う潤慶に、顰め面を向けるが、潤慶は変わらず微笑んだままだった。



「…それは、俺も同じ…に、…思って…る」

「………」

「…なに、その顔」

「いや、今日はやけにかわい……いや、うん、何て言うか…えへへ」

「何だよ、気持ち悪いな」



言葉を濁らせる潤慶を訝しみつつも、先程心に巣を作ったもやもやはいつの間にか消えていた。


礼など述べられない。

英士は、握られた潤慶の手を少しだけ、強く力を込める事でソレを示した。


あとはただ、窓の外。流れゆく景色を、ぼんやりと眺めていた。



反対の窓を見、珍しく頬を染めている潤慶にも気付かず、英士はいつしか睡魔の手に落ちていった。