03:いきなりですが
好きという気持ちは、突然、何の前触れもなしに、溢れて溢れて零れ落ちる。

湧き出る泉のように、ごぽごぽと溢れて零れる。


貴方への愛しい気持ち。

溢れて溢れて、水道の蛇口が壊れたように、溢れ出る愛しさは止まらない。


そんなに溢れて零れてちゃ、いつか枯れちゃうかも知れない。

なくなって欲しくない貴方への気持ちが、なくなってしまうかも知れない。


それは底なしへ落ちていく感覚。

果てない終わり、俺の人生の終わり。



そうなる前に俺は……
03:いきなりですが
願っても会えない時は、今日みたいにちっとも会えなくて。



寮に帰ったかもしれないけど、それでも、もしかしたらという可能性が捨てられなくて、俺は校内をウロウロとしていた。


会いたくて、会いたくて。

こんなにも会いたいのに、会えなくて。


言い知れぬ不安が、そろりろそろりと俺の中を侵食していく。



愛しい気持ちが、涙となって、溢れて、零れてしまうよ。


零れて無くなってしまったらどうしよう。



会いたいよ、先輩。



もう歩けない俺は、その場にしゃがみ込んでしまう。

床に、ぽたぽたと、水の雫が、いくつもできる。


これ以上、零れる恐怖に、俺は目を押さえた。

俯いて、腕に目を押し付けて、零れなしように、ギュッって押さえた。


ぽたり


それでも涙は止まらなくて、腕を伝って、床に雫がまた増えた。



「かーさい」



顔が上げれない。


きっと、今の俺は最悪な顔。

涙と鼻水で顔はぐちゃぐちゃだ。


衣擦れの音がして、先輩もしゃがんだのが分かった。

ふわ、と温かいモノが頭に乗って、手だと認識して、またぼたりと床に雫が増えた。



「見っけ」

「…隠れんぼなんてしてません」

「うん」

「探してるって聞いたから。俺も探してみた」



校内二周なんて初めてだぜと先輩の溜息が俺の髪を揺らした。



「…先輩」

「うん?」



瞬間の出来事。


先輩を引っ掴んで、自分の方へ寄せる。

先輩がバランスを崩して、片膝を付く。


そこに俺の片手を置いて、思い切り背伸び。



がつりと、音がしてじわりと広がった鉄の味。



唇が離れた瞬間、愛しさが、ごぽりと溢れて止まった。



「…好き、です」

「うん。俺も」



縋りつくように抱き付くと、先輩も同じように、俺よりも強い力で抱き締め返してくれた。


また、どこかで、ごぽと音がした気がした。



愛しさはいつだって、いきなり俺を侵食し出す。