ハッピバースディ トゥ ユー ハッピバースディ トゥ ユー ハッピバースディ ディア ヨンサー そう言って、彼は微笑んだ。 おぼろげに、微笑んでいるように、思えた。 懐かしい記憶が、今は苦しかった。 月 ♪〜〜♪♪〜♪〜 ゆっくりと目を開ける。 珍しく、真夜中に携帯が鳴った。 特定のヤツ以外はマナー、しかも1秒だけにしてある。 携帯が静かに鳴る。 ベッドの脇で、俺の目の前で。 この曲を指定してあるヤツは… 俺はハッとして慌てて体を起こす。 鳴り続ける携帯を開けてボタンを押し、そっと耳元に当てた。 ――ピッ 『ハッピィバースディ♪』 「…」 歌ってるとも、嘆いてるともとれる言葉が電話越しに耳に伝わってきた。 聞こえてきた声はとても懐かしくて、聞きたかったような聞きたくなかったような、俺に似たあの従兄弟のものだった。 『ちょっとちょっと、もしもーし?寝てるのー?ヨンサー?』 おーいと電話先で苦笑いを浮かべているだろうユンの姿が容易に想像できた。 声を聞いていると、何だか、胸が、苦しくなった。 泣きたいような、叫びたいような、……苦しい。 「……ユン…」 無意識にその名を呼ぶと、俺の声は驚くほど弱くて小さくて掠れていた。 電話先で、安堵の息が聞こえた、…気がした。 『ああ、起きてるね。良かった良かった』 「ユン、今何時だと思って」 『良いから良いから。外見てよ』 良くないよと俺が悪態を付く。 まぁまぁとユンが笑う。 渋々ベッドを降りて、カーテンを開けに窓へ歩み寄った。 チラリと見えた時計は、新しい時間を過ぎたばかりだった。 シャッとカーテンを開けると、眩しかった。 あと2、3日で満月になるだろう月が、俺を、俺の部屋を黄色く照らした。 太陽とは違う、優しい光で俺を照らす。 静かに窓を開けると、冬の風が部屋に吹き込んだ。 寝汗をかいていたらしい俺は、その冷ややかな風が、その時ばかりは心地良かった。 『…月、見えてる?』 「ん、微妙に欠けてるヤツが見えるよ」 机の脇にある椅子を引っ張ってきて、窓の傍へ置き、そこへ腰掛けた。 『そう、僕のところでもそれが見えてるんだよ』 「…ユン、どうしたの?」 ビュオォォォ――…ッと、強い風が吹く。 体はもぅ冷えているのに、とても熱かった。 暑いではなく、熱かった。 『…ヨンサ』 「なに?」 暫く続いた沈黙を破ったのはユンだった。 寂しそうに、ポツリポツリと言葉が紡がれる。 『愛してるよ』 「……」 『どこにいても愛してる』 「…うん」 流れるように、けれど気持ちの入った言葉が、また俺の心臓を苦しめる。 けれど今度は、甘い苦しみ。 『ヨンサは言ってくれないの?』 「何て?」 そこでユンが苦笑したのが聞こえた。 『愛してるって。分かってるクセに、ヨンサは意地が悪いね』 そんな悪態が、ボソリと呟かれた。 悪かったね、意地悪で。 「…言ってあげない」 『相変わらずヨンサの愛は痛いね』 クスクスと、ユンが笑う。 俺は、ユンの、笑う顔しか見た事ない。 そんな、笑顔さえ、ボンヤリとした輪郭で、はっきりとは思い出せない。 「言って欲しかったらこっちに来い」 『うん。行くよ、絶対に』 『じゃあ、もう切るね。こんな遅くにゴメンね。オヤスミ、僕の愛しのヨンサ』 「……オヤスミ、ユン」 電話が切れる、その瞬間―― 「待ってるからッ!!」 俺は、そう叫んでいた。 自分でも何でそんな言葉を発したのかよく分からない。 ♪〜♪♪〜 と、突然携帯が鳴る。 「………バカ…」 『From:潤慶 件名:無題 本文:待っていて。白馬に乗って、君を攫いに会いに行くから。 P.S 僕が誕生日誕生日プレゼントだからね』 『愛している』と 飽きれるほどに、言ってあげるから早く、来い。 この月が、欠ける前に。 |