エンディングのその後で
エンディングのその後で
気付けば、走り出していた。

気付けば、縋り付くように抱き締めて、存在を確認するように頬を撫ぜて。


夢じゃないと言い聞かせるように名前を呼んでいた。

何度も 何度も 声が上擦って掠れて 泣きそうになっていた。



「ミツ…ミツル…ッ!おまえ…ホントに…っ…ミツ…ル!……ッ、ミツル……ッ!!」



気付けば、視界はぐらぐらと揺らめいていて

気付けば、じわりと目頭が熱くなっていて



「み、三谷…」

「ミツル!お前、ホントにミツルなんだな!よか…っ良かった…!ミツル……ッ



何度も顔を見上げて抱き締めて、肩をガクガクと揺すった。


聞きたい事が沢山ある。


どうして今ここに居るのか。

一体、いつ、どうやって帰ってきたのか。

今はどこに、誰と住んでいるのか。


今の自分と母の回復、それからそれから…

言いたい事は山ほどあるのに、出てくる言葉はひたすらに名前だった。



「み、三谷…落ち着け。ここは…学校だ、から…



ガクガクと揺すられて、ミツルは額を押さえながらそれだけやっと言い放った。

そこでハタと我に返って、事の大きさに、気付いた。



「亘、転入生と…知り合い、なのか…?



背後から親友が恐る恐る声を掛けてきた。

知り合いだって? この間まで、いたじゃないか、一緒に見に行って…!



「っ、カッちゃん…コイツの事覚え…むぐっ」

「気にしないで。暑さで混乱してるだけだよ」

「なっ…ボクは別に混乱なんて…!」



ぽふ と口元を手で覆われて、ワタルは言葉の続きを篭らされてしまう。

そうして、手を離されたところで、してない! という言葉は、突然鳴り響いたチャイム音によって掻き消されてしまった。



「そうだ、三谷、職員室を案内してよ」

「え…あ…う、うん!カッちゃん、先に行ってて!」

「お、おー。じゃあ…先行くな」



含んだような笑いをするミツルに、ワタルは、あ と目を見開いた。

急かすように友人を教室へ追いやる。


後でねー と姿が見えなくなるまで手を振って、それから抑え切れない感情を爆発させんばかりに、そちらを振り返った。

驚きに目を瞬かせているミツルの手を握る。



「ミツル!ホントにミツルなんだね!ミツル!」

「正確には美鶴だけどね。それにしたって興奮し過ぎだよ三谷」

「あ…う……ごめん」



転入早々、変な噂が立つだろ と眉を顰めるミツルに、ワタルは、嬉しくて、つい… と苦笑いを返した。



「でも…」

「ん?」

「……イヤ。ほら、亘。職員室まで案内してよ」

「………―――っ!!!うん…っ!」



スタスタと歩き出してしまうミツルに追いつくべく、ワタルは慌てて上履きに履き変えた。

と、走り出してふと気付く。



「ミ・ツ・ル・くーん」

「何だよ…気味が悪い声を出すな」

「失礼な!…じゃなくて。お前もホントは嬉しいんじゃないの?」

「…何が」

「ボクにまた会えて」

「何を根拠に」

「耳が真っ赤だよー、ア・シ・カ・ワ ミ・ツ・ルくーん」

「……」

「っあ、ちょ、待てよー!ミツルー!」