買い物から帰ってくると、いつも出迎えてくれるヤツがいる。 飽きもせず、毎日毎日。 俺のただいまの独り言が口から零れる前に、おかえりなさいますたあ!と平仮名全開笑顔全開の顔が飛んでくる。 文字通り飛んでくるのだ。様々なものを内蔵した、その重たらしい体が。決してがたいがいいわけではない、俺目がけて。 さらさらと揺れる柔らかな髪と特徴的なコート、トレードマークの青いマフラーをなびかせて、見た目年齢二十歳すぎの、いや、もう少し若い…というか幼い青年。 その幼さは、見た目と、それから中身を指している。 少し高めのトーンと無邪気な笑顔は、見た目年齢を幼く見せる。 黙っていればそれなりだろうに… その整った顔立ちは、俺の顔を目にとめるや否や、へらりと崩れて、形の良い唇からは、あいすうと舌っ足らずな平仮名が飛び出す。 友人に言ったら躾がなってないだとか甘すぎるだとか言われるのだろう、それは俺も重々自覚しているし、どうしたら良いものかと真剣に悩んだこともあった。 だが、あいつに見つめられたら、ねだられたら、勝手に体が動いてしまうのだ。いやもうそれは、条件反射のように体に染みついてしまっている。 いつだって。これじゃあいけない、カイトのためにならないと。 そう思いながらも、俺は今日も今日とて出費の痛いアイスを箱買いしてしまったのだった。 ありがとうございます、ますた! なんて言葉を期待して。 メルト 一段、また一段と上る度に、ギシリだとかガタリだとか、底が抜けるんじゃないかなんて不安を過ぎらせる階段を、最初の頃、あいつはよく怖がっていた。 落ちたところで捻挫程度にしかならないだろうものを怯え、時には俺にひしとしがみついて、時には物凄い速さで駆け上がり。…あの時はほんとに抜けるんじゃないかと思ったっけ。 思えばあの頃からバカだったんだなあと、また、ぎしりと呻いた階段を見下ろしながら、くっと笑いを堪えた。 そんなおバカは現在留守番中である、というよりも家に置いておかないと不安で仕方なかったりする。 弁明しておけば、これは過保護なんじゃなくて、あいつがいつどこで何をしでかすか分かったものじゃないから、である。 アイツに言わせれば、失礼ですね!もう!らしいが、どこが失礼なのか分からない。 家を出ようとするたびに、おれも!といってついてきて、やれあれは何だだのあいすが食べたいだのと、あっという間に財布が軽くなってしまうのである。 最初のうちは珍しいんだろうなと黙っていたが、一向に納まらない興味に、俺の財布の方が先に根をあげ、外出は月に一度だけと決めた。 あの時のしょんぼりした顔は、なんとも心を痛めたけれども、このままじゃあ家計が悲鳴を上げると俺は心を鬼に、代わりにアイスをなるべく買ってくるようにはした。 ともなると、俺が帰ってくる、すなわちアイスがやってくるの方程式があいつの中にできてしまい、俺がドアを開けるとヤツはいつもそこに立っていた。 ある時は座って、ある時は走って寄って来て飛びついて来た。 おかえりなさい、ますたあ!あいすは!? 待たれているのは自分ではないというのはどうにも解せないが、嬉しそうな顔を見せられては怒る気もどこへやら。 今日も今日とて手にしたアイスの袋を見下ろして、俺はふと、小さな好奇心に水をやった。 きっとこの時間、カイトはテレビを見るか暗譜をしているかだろう。そこへこっそりと帰ってきた自分がカイトを驚かせる。 たったそれだけのこと、それだけのことなのだが、その時を想像すると、なぜだか楽しくて堪らない。 ニヤニヤ緩む口元を引き締めて、俺の存在を知らしめる騒がしい階段をそろりとのぼる。 くるくると変わる表情はいつ見ても飽きない、驚きに目を見開く彼を見たいと悪戯な気持ちが足音を忍ばせた。 そろりそろりと鉄の板が敷かれた二階へ上り、色褪せた水色のドアを三つ通り過ぎる。そうして一番奥のドアの前に立つ。 ドアノブに手をかけ、ゆっくりと回す。気付かれないよう、慎重に… 「ますたあ!!!」 「うおあっ!」 大声と、何か大きなものが自分の視界を暗くする。と思えば頭の中をたくさんの星が散った。 後頭部が、鈍い痛みを訴える。 「―――ってええ!何すんだカイト!!」 「あっ!え、あ、う…ご、ごめんなさいっで、でも、だって!!」 自分の視界を暗くしたのは、まあ分かっていたが、カイトだった。 今日も今日とて暑苦しそうにマフラーを身に付けた彼が、帰宅した自分目がけて突撃してきたのだ、突進、ダイブと言っても良い。 逆に驚かされてしまったと閉めたドアに打ち付けた後頭部をそっと擦りながら、体を起こす。 そこで異変に気付いた、おやと首を傾げる。 アイスはありますか?!と目を輝かせるのが常なのだが、今日のカイトは何やらおろおろと不安げに眉を下げて、俺の腕を上げたり下げたり、掌を開いたり閉じたり、体の隅々を、何かを探すように眺めている。 「……何やってんだ?」 「ますた、具合悪いんですか?!」 「は?」 「だって、今日はいつもと足音が違ったから…!」 そういって、救急車は何番ですか!と立ち上がるカイトに、苦笑いが零れた。 「……バカだなあ、お前は」 「っひどいです、ますた!おれはホントに心配して………ますたぁ?」 ばかなカイト、ばかみたいに優しくて、やってられねえと、俺はそのカイトの腕を掴んだ。 俺の力などではカイトは動かせないが、カイトはされるがままに膝を折り曲げた。 首を傾げる大きな犬のような純真無垢な瞳に見つめられるのは耐え難くて、俺はその体を、ぎゅうと抱き締めた。 ますたぁ、と不思議そうな声が耳を擽り、ゆっくりと背に回された腕に、ああ、ちょっと…ちょっとやばいかも…なんて 「あ、アイスだ―――!!!」 「っっ!」 甘い雰囲気をぶち壊す一声。ま、カイトだしな、と俺は肩を下ろした。 背中に回していた腕を、俺が手にしていたビニールへと懸命に伸ばす。なんつーか…脱力したくなる思いだった。 「カーイート!」 「う、あ、はい!ごめんなさいますた!まだ食べませんっ」 「そうだな、俺が良いって言うまで食べちゃ…?」 「ダメです、ぜったい!」 窘める声にビクリと反応し、カイトは身を正した。 以前買い置きしてあった大量のアイスを一度にぺろりと平らげトイレに籠ったことのあるカイトは、俺と一つの約束をしていた。 俺が良いと言った時だけ、良いと言われた分だけ、食べること。破ったらアイス一ヶ月禁止よりきつーい仕置きだと言ってみたら効果は絶大過ぎたらしい、カイトは約束を死守する勢いでいた。 びしりと敬礼をしたカイトに苦笑し、立たせる。 「じゃあこれは冷凍庫に仕舞って…」 言いかけたところで、ピリリリ、と尻ポケットの中の携帯が電子音を発した。 向かいで露骨に嫌そうな顔をするカイトの頭をぐしゃりと撫でる。 「今日はどこも行かねえよ、アイス冷凍庫に入れておいて、三時になったら一緒に食べよう」 「!っはあい!」 携帯を手にして反対の手でカイトに袋を渡して中へと追い立て、自分はドアを開けて外へと出る。 途端むわあと頬を撫でる熱風に眉を顰めつつ、携帯のディスプレイを開く。 どうやら仕事の話らしい。できれば出たくない番号を目にしてから、渋々と携帯を耳にあてた。 「なに?」 受話器の向こうで混乱気味に用件を伝えてくる声に耳を傾けながら、俺は時折相槌を打って話を続けさせる。 カイトは仕事の話が好きではなかった、というよりも嫌いらしい。 何でも、ますたはそれが鳴るとおれを置いていってしまうと、とても胸にくる健気なことを言ってくれたことがある。 そういうわけで仕事の急な呼び出しや長くなる電話の音に、カイトは一々ああして眉を顰めるのだった。 …… 何ともまあ、…可愛いと思うわけだ。うん。 「んーふーっ、ふーふーるーるー」 小さく口ずさむ声は、部屋の中に小さく反響して消える。 新しく渡されたテンポ良い曲を頭の中で音符に変えながら、カイトは袋の中のアイスを一つずつ、それはそれはもう丁寧に丁寧に、そうっと冷凍庫へ仕舞っていた。 先程までちっとも気にならなかった空腹が、ここへきてひやりと冷えたアイスに飢えを訴え始める。 「いち、にい、さん、しぃ、ご!五個もある!ますたあ太っ腹!」 並べた五種類の味のアイスはカイトにとっては何とも壮観で、そして魅力的なものだった。 一つぐらい…と意地の汚さが頭の中で提案をしてくる。 「っ、だめだめ!ますたがダメだって怒る!」 ぶんぶんと首振って、誘惑に負ける前にぱたんと冷凍庫を閉める。 「……ほ、ほんとうに五個だったかな………も、もう一度、数えるために開けます!」 誰への宣言なのか、カイトはそう言って冷凍庫を開ける。 バニラ、ストロベリー、チョコにチョコミント、ミックス、キャラメルと五つのカラフルなパッケージを眺める。 その様はここにマスターがいたならば、お前ってホントに…と苦笑しただろう、きらきらと子供のように目を煌めかせ、カイトはバニラを手に取った。 「中身が、バニラかどうか、怪しいですよね!」 カイトは手に伝わる痺れるような冷たさに口元を緩ませ、そろりと細く白い指を伸ばした。 開け目を掴み、ぴりぴりと蓋を開ける。 「………お、おいしそう……………ひ、一口、だけ」 きらめくカイトの瞳に負けず劣らず、冷えた氷とアイスが煌めいて反射して、まるで食べてくださいとばかりに甘い匂いを漂わせている。 カイトは食器棚から小さなスプーンを取り出し、さくりと、少し柔らかくなったアイスへと突き刺した。 「ああ―――…あっちぃ…カーイトォー?ちゃあんと閉まったかあ?」 ばたんとドアを閉めたのは勿論主人である、アイスに夢中で聴覚がおろそかになっていたらしい、気付いたのはぺたぺたと素足がフローリングを歩く音だった。 「……カァ、イ、トォ?」 「…ま、ますた…」 男一人で余裕のなくなる小さなキッチンに蹲って、カイトは急に暗くなった視界に肩を竦めた。 見るまでもない、閉じた冷凍庫、床に置かれた見慣れたパッケージ、そして見上げたカイトの頬の白いもの。 ひくり、と己の頬が引き攣るのを俺は感じた。 「約束、破ったな」 「っっ!!!ご、ごめんなさい!ごめんなさいますたあ!おれ、おれ…!」 「……ちょっとこっち来い」 どうしてロボットの癖に涙なんか出るんだろう。ぼろりと頬に零れた大粒の涙に、うっかり面食らう。 みるみる消えていく怒りの炎に脱力しながら、俺はこれまた狭い居間と呼べなくもない部屋へとカイトを招く。 そこへ座れと指示して、自分も床へ腰をおろせば、カイトはアイスを手にしたまま恐る恐る俺の向かいへと腰を下ろした。足はキッチリと正座しているが、その手に持っているアイスが気になる。 「そんなにも好きなのか、お前は」 「え?」 「一回に十個も二十個も食って腹壊して、きちんと言いつけ守って美味しそうに食べて、こうやって俺に怒られるって分かってるのにまーた食べて」 「ごめんなさい」 「好きなのか?アイスが」 「…はいい」 ごめんなさい次は守りますからアイスずっと抜きはやめてくださいいとぼろぼろ涙を零すカイト、どうやら一ヶ月アイス禁止より厳しい仕置きはアイス一生禁止令だとでも思っていたらしい。 だが、しっかりと手に握られたアイスがまたやるんじゃないのかと疑わしさをにおわせる。 とはいえ、俺も鬼ではない。 こうやって反省しているのなら、これ以上何もいうことは無い。 まあ、お灸ぐらい据えてやるか、と俺は邪な思いを悪びれもせず頭によぎらせた。 「分かったよ」 「…っ」 「次は無いからな」 「は、はい!ありがとうございます、ますたあーっ!!」 涙にぐしゃぐしゃになった顔を嬉しそうに緩ませてカイトはにっこりと笑った…ああ、これからすることに少しだけ、罪悪感。 「で、そのアイスだが」 「あ、はい…ちゃんと冷凍庫に戻して――」 「いや、そんなに食いたいんだったら食っていい」 「えっ!?」 俺の言葉にパアアと顔を明るくするカイト、少し液状になってしまったバニラに手をつけようとするカイトの腕を掴んだ。 恐らく、俺は、今物凄く、意地の悪い顔をしているだろう。 「ただし、手を使わずに、だ」 「え?」 俺の言葉が理解できなかったのだろう、カイトは首を傾げる。 俺は上げた腰をそのままに、掴んだ手からスプーンを奪い取り、脇のミニテーブルの上へと置いた、不思議そうに見つめるその瞳と視線を合わせて、にやりと笑ってやる。 「わ、わ、ま、ますたっ!?」 「ほら、大人しく脱げ」 「うわわわわ」 驚きに目を丸くするカイトをさておいて、今度は着込まれた服を脱がしにかかる。 慌てて胸を押し返そうとするカイトの手をどけて、ほらと上着を脱がして、下に着ている服もばんざーいと脱がしてやる。 この時期だし、寒さは感じないだろう。 露わになった薄く白い胸板に、思わず喉が鳴った。 「なっ何するんですかあ!」 「アイス食べるんだろ?」 「た、食べますけど普通に…っ、う、わ、あ!!」 未だしっかと握られたアイスを奪い取り、俺はそれを引っ繰り返した。カイトの腹の上へと。 カイトは信じられないものを見るかのように目を見開いて、己の腹を見ている。 当の俺はと言えば、まるでこれは情事後のソレじゃあないかと、カイトの腹に掛かった真っ白な液体を見つめ、眩暈を起こしかけていた。 「ほ、ほら、手を使わないで食べてみ」 「そ、そんな無茶な」 「このままだと溶けちまうぞ?良いのか?」 「それはだめですう!うう、ううー!」 溶ける、つまり食べ損ねる事実にカイトは首を振り、必死に首を動かす。 もどかしげに横で揺れる手と、決して体が柔らかいわけではないカイトの頭が目の前で懸命に前屈じみたことをしていて、その様に笑いが込み上げた。 「うええん、ますたあ、食べれませんんんー」 「そうかあ、可哀想になあ」 「ますたああ、食べたいですよアイスー!」 ぐじぐじと男のくせに情けのない、カイトはまたも目尻に涙を溢れさせて、顔をあげた。 どう頑張ったところで無理なのは分かっていた、腹のへこみに溜まりつつある溶けかかったアイスを見遣ってから、よしと頷いてやる。 「じゃあ俺が食わしてやるよ」 「ほんとですか!」 「おう」 悪戯の目的はこちらだった。うっかり熱を持ち始めた下肢は電話の最中も頭の中を駆け巡るカイトのせいで鎮まることもなく。 まあまだ日没にはちょっと早いけど良いか、と思っていた矢先にアイスのつまみ食いを発見し、閃いたのだった。 俺は身を屈めて、腹を伝うアイスへと舌を伸ばした。 「っ、ま、ますた、くすぐった…」 「動くな、アイスが零れるぞ」 「で、でもお…って、ますたあ!ますたがアイス食べるんですか!」 ひどい!と頭の上で喚くカイトを無視して、俺は舌先を冷やすアイスを舐め取るようにして腹へと舌を這わせる。 本当を言えば、アイスはあまり得意ではない。カイトのためだけに買っているようなもの、今だってまだ少しばかり時期の早いアイスに舌はもうぴりぴりと痺れてきていた。 「っますたあ、聞いてますか!ますた!ますた!」 「あーもう、こうしてやるっつってんの!」 「んむっ」 そう言うが早いか、俺はカイトの顎を掴んで、顔を近付けた。 触れた唇に、カイトは慌てたように目を動かし、けれど次の瞬間納得がいったのか、うっとりと目を細めた。 「あ…、ん、っん、んっ…ふ」 抗議に開かれた口内へするりと滑り込ませた舌は、椀のように凹ませてあってそこへ溶けたアイスが溜まっている、それをカイトの口の中へと移してやった。 カイトは口の中に広がった、少し温いその甘さに嬉しそうに舌を絡ませる。 「っはあ…どうだ、うまいか?」 「はい、おいしいれす」 もっとください、と少し赤くなった頬で呟くカイトに頷いて、また身を屈める。 「っ、ん、…っ」 「…どうした?」 「い、いえ…何でもっ、な、あっ」 「ふうん?」 ほわ…とした笑いの中に現われた小さな変化に気付かないフリをして、俺はゆっくりと体を起こす。 アイスが腹にあるため身を起こせないカイトが腕を伸ばすので、そのまま引っ張り倒されるようにしてカイトに覆い被さる。 アイスが零れないよう脇から舐め上げて、舌を伸ばすカイトへと舌を絡ませる。 「っん、ん、ます…たっふ…あ、あっ」 「カイト、何でここ、こんなにしてんだよ」 「…っそ、それはますたあが…!」 「俺?俺が何かした?」 「へ、変なところとか、舐めるから…っ」 カイトの変化、すらりと伸びた足が左右交互に、もどかしそうに擦り合わされている。 それでも気付かないふりして、カイトの唇へと口付けを再開する。 「んむ、っ、ま、ますた…っん、んん、うっ」 「変なところねえ……ああ、こういうところとか?」 「んあっ!」 びくんと背が弓なりに仰け反ったのは、淡く色づいた二つの突起を指先で弾いたからである。 腹を舐める際に飛び散ったものを舐め取るふりして弄った突起は、辛そうに色を赤くしていた。 「ここ、辛そうだなあ?ん?」 「あ、あっだ、だめっ…っますた…や、あっああっ!」 「そうだよなあ、片っぽじゃ不公平だもんな、こっちも弄ってやんないと可哀相だよな」 「やああっち、ちがう、ますたあっ!」 つんと固くしこった両方の突起に指を這わせ、摘んだり引っ張ったりを繰り返す。爪の先があたって引っ掻くように擦ると、カイトはいよいよ甘い声をあげて喉を反らした。 「ま、ますた…あっあっ、やだ、も、ますたあっ!」 「どうしてほしい?」 「――っし、したも、いじってくださいいぃっ」 「どんな風にしてほしいんだ?ほら、言わないと分からないだろ」 「っ、握って…擦って…く、くわえてくれたら、うれしい、れす」 「ほんと可愛いのな、お前って」 「んっ」 ふるふると苦しげに恥ずかしげに、カイトは自身の下半身に手を添えて、回らない呂律でたどたどしく言葉を紡ぐ。 良い子だなと褒めるように、べたべたの手で頬を撫でて、それからカイトの手をどかし、ズボンを下着ごと取り払う。 「ひ、」 外気に晒されて、ゆるゆると勃ち上がったソレがふるりと震える。 恥ずかしそうに顔を隠すカイトを見遣ってから、力なく閉じられる両膝を割って体をいれ込んだ。 「カイト」 「…っ」 「カイト」 「な、なんですかあ」 「ちゃんと見ろ」 「ふぁい」 命令するようにして吐かれた言葉にカイトは素直に頷いて、けれどやっぱり恥ずかしそうに指と指の隙間を開いて涙の滲んだ瞳を開ける。 その瞳とかち合ったのを確認してから、カイトの逸物を口へと銜えこむ。 「あ、ああっ!ま、ますた…!!!」 「ん?」 「きゅ、きゅうに…っそ、な…っあっあっ、ああっん…!」 あまり苦しくない容積がじりじりと質量を増し、口内にじわりと苦い液体が広がる。 時折歯を立てながら、扱くようにして舌と口を動かせば、カイトは苦しげに体を揺らめかせた。 「カイト、あんま動くな、零れるぞ」 アイスが。 そういうとカイトは眉を顰め、辛そうに唇を噛み締めた。 「そう睨むなよ、ほら、こうしてやるから」 「ん、う」 そう言って片手をバニラのにおい溢れる腹へと押しつける。 もう殆ど床へ零れてしまったアイスの残りを拭うように手のひらと手の甲を擦り付け、それをカイトの口元へと持っていってやる。 ほらと手を差し出すと、カイトはそろりと赤い舌を伸ばし、ゆっくりと俺の人差し指を舐め上げた。 ざらりとした感触に背筋を鳥肌が襲う。中指、薬指と差し出せば、カイトはただ黙々と指を舐めていった。 「ん、ますたあ」 「ん?」 「アイス、おいしかった、です」 ぷは、と上から聞こえて、口に含んでいたソレを離して見遣れば、恐らく唾液だろうてらてらと濡れている己の指が目に入った。 「ほんとにアイスが好きなんだな」 「ま、ますたのことも大好きですよ!」 「……あっそ」 付け加えるように言われたその言葉が気に入らないわけじゃない、ただ、どう反応したら良いか分からないだけで。 俺はとりあえずカイトの自身を口に含み直す。 途端、春の日だまりのような笑顔が歪み、艶めかしい表情が浮かび上がった。 「なあ、カイトォ」 「っああっ!喋らないでくださいよお!」 「ああ、わりい」 「っっだからあー!」 「俺も」 「へ?」 「嫌いじゃねえよ、お前のこと」 「………へへ、素直じゃあないですねえ」 「うるへー、早くいってしまえ」 「んんっ!」 どこのバカだ俺はと半ば自嘲気味に呟いて、自分の服を掴んで耐えるカイトを苛めてやる。 ただ、ただ嬉しかった。それだけだ。それ以上だって以下だってない。 「あ、あっま、ますた…っも、やば…っ」 「ん、いけ」 「は、はいいっ――――っっ!あああああぁんっ!!!」 口の中をごぽりと満たしたのは、先程の白さに似た、けれどまるで違う青臭いような苦ったらしい味。 ま、甘いよりはな、と喉を鳴らして飲み干す。 「カイト」 「…はあ、はあ、…はい?」 「片付け…頼む。俺は疲れた」 「ええええー、ますた、ずるいですよー!おれだって休みたいー!」 「俺がしてやったんだからお前が働け、全部お前の汁だ」 「そっそういうこといわないでくださいよー!」 「はいはい」 もーとぷりぷり頬を膨らませて怒るカイトを尻目に、俺は近くにあった布団へと仰向けに寝転んだ。 脇で早速騒がしく動き出す音を聞きながら、妙にひやりとする掌を掲げてみる。 「あー…」 そういえば舐められたんだったなとすっかり乾いてパリパリと乾燥している手を見つめ、おもむろに口を寄せる。 「……なあカイトー」 「なんですかー?」 「こっちきて一緒にごろごろするか?」 「っわあい!しますしますうー!」 「うぐっ!!てめ、誰が上に乗っていいと…!」 「ますた、大好きです!」 「はいはい」 ああ、やっぱり、甘いものは気が滅入る。 ろくなことがねえなあと俺は、結局戻ってきたずっしりとした胸の重みをぽんぽんと叩きながら、ゆっくりと目を閉じた。 |