分かってるよ。 先輩が悪くない事くらい。 矛盾 「あっ!」 ピタリと誠二が足を止めた。 俺は誠二の後ろを歩いていて、突然の事に対応し遅れて誠二の背中にぶつかった。 「っ痛…何?」 俺の問いに誠二は眉を八の字に下げて申し訳なさそうに言った。 「映画の予約録画し忘れてた…」 「…俺が昨日頼んだヤツ?」 「そう」 大きく、深く、わざとらしく溜息を付いてみる。 チラリとそちらに目をやれば、誠二は拝むように両手を合わせて頭を下げていた。 「あれほど頼んでおいたのに?」 「ごめんーっ」 「昨日の晩飯のニンジン食べてあげたのに?」 「だからごめんってばーっ」 お昼なら寮に戻れたかもしれないのに、よりによって放課後、しかも部室へ行く途中。 「何で今頃…」 「うわぁんっごめんごめんごめんてばーっ!!タクー!怒んないで!何でも言う事聞くからー!」 そう言われ、そこで俺はずっとずっと悩んでいた事を思い出す。 「……じゃあさ、俺の相談に乗ってよ」 「…相談?もっ、勿論!乗る乗る乗ります乗らせて下さい!だから許してーっ」 「分かった分かった、許してやるって」 恐る恐る、といった感じで俺の方へ顔を近づけてくる。 誠二は不安と恐怖とが入り混じった、今にも泣きそうな顔で俺を見つめた。 この顔を見ると、無条件で許したくなるから困ったものだ。 「ホントにー?」 「ホントにー」 「…そっかっ、良かった…でもホントにゴメンな」 「うん」 至近距離で微笑み合う ―俺は苦笑いに近いけど― 誠二と俺。 「誠二、顔が近い」 「何で?別に良いじゃん!」 「渋沢先輩に見られたら誤解されるぞ?」 「キャプテンは分かってくれてるから平気ー」 「あそ」 これ以上注意すると、泣きそうに、イヤ、この表現は間違い。本当に泣くのでやめておく。 抱きついたり、額や鼻がくっつくほどの至近距離で会話をしたりが日常茶飯事になってしまっていて、いい加減に俺も慣れた。…慣れざるを得ないと言うか。 最初の頃は渋沢先輩の俺への態度がキツかったけど、誠二が渋沢先輩ラブを場所を問わずに撒き散らすので今では微笑ましく見守られてたりする。 でも三上先輩は怒る事も嫉妬する事も無く、その様子を冷ややかに見ていたのを覚えてる。 そう、引き剥がす事も、八つ当たりする事も、怒る事も、傷付く素振りも、何も…ない。 やっぱり傷つくよなぁ。 愛されてないのかなぁ、と不安になる。 自分ばっかり、好きなんだろうか…。 と、不意に。 「あっ!」 誠二が、いつの間にやら俺を抱き締めていて、俺の肩越しに声を上げた。 「っ…今度は何?」 俺の問いに誠二は慌てて取り繕う。 「ななななななんでもない!!!それよりさ!俺、教室に忘れ物しちゃったよ!一緒に取りに行こう!!!」 「ちょっ、誠二!後ろに何があるって…」 「あ」 次の瞬間、言葉を失う。 今度はショックだったのか、驚きだったのか、分からない。 「三上先輩…と、」 先輩は、見知らぬ女子生徒と、いた。 |