戻れない 戻らない
愛したくて堪らなかった




壊れてしまいそうなほど 脆く 儚く 淡い君に

壊してしまいそうなほど、愛したくて堪らなかったんだ…
戻れない 戻らない
「夾…君?」

「ん?」



知らず知らずに伸びた手。

テーブルに置いてあった蜜柑を剥くその手がピタリ と止まり、視線が合わさった。


…すぐに逸らされたけど…



「な、何か…ご、ご用で すか?」

「ゴヨウって?」



さら とそのやわこい髪を弄れば、頬が赤みを帯びていく。

悟られまいと気丈に振舞えど、声は震え、視線が泳いでいた。


俺は今、どんだけ意地悪そうな顔をしているんだろうか…どれだけコイツを困らせて楽しんでいるんだろう…



「何か無いと、触っちゃダメか?」

「…っ、い、いえ!いいえ!…そ、そんな事は…!!…ない です が…



返答など当に分かっているくせに…


寂しさを装わせて問うてみれば、慌てた返事がすぐさま返ってきた。

そうしてハタと思い出して段々と尻窄んでいく声に小さく笑えば、透も漸くこちらを見て、へにゃり とかなり無理矢理な笑顔を作って見せた。

耳まで真っ赤に染めたその顔で…



「ぶはっ!」

「!!?」



ああ、こうして吹き出すような日がくるなんて、

夢だったならどんなに……どんなに良かっただろうか…


夢なんだと 言い聞かせて 諦めて 抑えられたのに…



「透…」

「きょう…くん…」



さらりさらり と揺れるその髪の先を、つい と引っ張って、目線がまたテーブルへ上がったなら

逸らされる前に 交わそうか…



愛の囁きを

その熱い口付けで…