今まで何度も見てきた涙に、今日ほど欲情した日はない。 どんなことがあろうと抑え込んできた思いは、切れてしまえばあっという間で。 驚く若の顔を気遣うこともできなくなっていた。 「…っう…あ」 想像していたよりもずっとずっと白くて柔らかい肌に、一種の感動を覚えながら手を這わせていく。 どこに触れれば良いのか、まるで知っているかのように手を動かせば、彼は面白いぐらいに体を竦めた。 「やめろ………んま…そこばっか…っ」 「痛いですか?」 「そ、じゃなくて…っ!」 耐え難いものから逃げるように身を捩るのを制して、赤く鬱血した突起に触れる。 「ちょ、ま、待てって……ひっ」 ざらざらとした舌の感覚に戸惑うように、若は目をあちこちに泳がせ、最終的に顔を覆ってしまう。 そこで私は漸く動きを止め、若の腕をとった。 「わ…」 「…こで…」 「え…?」 「ここで…若なんて呼んだら…ぶっ飛ばす…」 退かした腕、伺い見ようと思った顔はすぐにふいと逸らされてしまう。 代わりに目に入った耳が、痛そうなほど真っ赤になっていた。 「…っああっ!…ちょ、はじめ…っ、てめ、何やっ…」 ここへきて始めて呼ばれた自分の名に、なぜか粟立つものを感じながら、若の制止も聞かず、ベルをを引き抜いて下着ごとズボンをおろす。 「…てっきり拒絶されるかと思いましたが……」 「……な、なんだよ…言いたいことあんならはっきり言え」 「案外、感じて頂けていたようで安心し――」 「わーわーわー!言うな!やっぱ言うなあああ」 私の言葉を遮って耳を塞ぐ若に苦笑して、その細い足を肩に掛けた。 「…腕はそちらではなく、こちらに」 「う……ぜってー、無理だと思うんだけど…ンなの、入る気がしねえ」 「入る気がしないのではなく、入れるのですよ」 「………おれ、今ちょっと、引いた」 「結構、ですが止めてなどあげませんよ」 赤い顔が一転青くなったのを目の端に、若の腕を引いて自分の首へと移動させる。 距離が近くなったことにたじろぐその瞳に口付けて、ああ、と思い出したように声をあげた。 別に今思い出したわけでは、ないのだけれど。 「そうだ、とても痛いと思いますが…我慢して下さいね」 「…そんなこと言われて…我慢できるやつなんかいるのか…?」 「大丈夫、和利さまはやればできる子ですよ」 「そ、そんな時に言われたってなあ、ちっとも嬉しくなっ…!」 若の言葉が途中で途絶えたのは、彼が息を呑んだからだろう。 あられもない格好で、まさかそんな場所に、そんなものが…とでも言いたげな目であるが、声が出ないらしい。 早くも乾いた目が滲むのを笑顔で返し、屹立した己を宛がう。 「は、はじめ…おれ、やっぱ…」 「舌は噛まないでくださいね」 「人の話を…っ…!!!いっ―――――〜〜〜っ…!!!!」 一気に顔が歪む若を気遣うことさえできず、自身が持っていかれないように歯を食いしばった。 シーツを握る指先が白くなるほど力が込められ、背に回った腕が血が滲むほど爪を立てたのを感じた。 「い…っあ…っ!…む、むり…っ!」 「だい、じょうぶ…息を…ゆっくり吐いて」 「っう、あ…っはじ、はじめ…っ…いた、いっから…!」 「後でどんなお叱りでも受けましょう…今だけは我慢してください…!」 「っづああああっ!!」 鼓膜が、若の嬌声と、血が入り混じって濡れる音を捉える。 そのうち浅い息を繰り返す若の声が大きくなり、止めていた息を少しずつ吐けるほどには楽になる。 「は…はあ…ね、大丈夫だったでしょう」 「てんめ…あとで覚えて…やがれ…」 「…一生、忘れませんよ」 怨みがましく睨むその瞳が、一気に艶を帯びて、悪態は言葉とも取れない嬌声へと変わる。 「あっ…ああっ、ちょ、ああっ!」 待てという言葉も出せないほど揺さぶって、痛みに変わる悦楽へと導く。 口の端から零れた唾液が、口を婀娜めかしく見せて、魅せられるように口付ける。 「んむ…っん、んんっんんうっ!」 「っは、かず、としさま…っ気持ち、良いですか…っ」 「わ、わかんな…っもうちょっとゆっく…りっうああっ」 奥へ奥へ突く度に、背中についた傷が深く抉られていく。 火を当てられるような痛みに顔を顰めながら、汗に濡れた前髪を払ってやる。 「も、もうっ…はじめっ…だめだっ…だ、だめ…っ!」 「構いませんよ…何度っ…でも…!」 「ばかっ…んなに…するかっつー…ああっ…やば…っ!」 「…っ」 「――――〜〜…………っ!!!」 貫くように最奥を突いたのと、爪の傷が広がるのとどちらが早かったか。 痛みとも快感とも知れぬものに追われながら、若の後を追うように果てた。 |