幸せ
幸せ
「10代目ぇー!愛してまぁああぁす!!」



獄寺は、体育祭でする選手宣誓のように、ビシィッ と右手を高らかにあげて叫んだ。



「はいはい、分かったから静かにしようね」

「10代目はー、オレのことをー、愛してますかぁああ!?」

「あーはいはい。愛してるよ」

「心が篭ってませ―――ん!!」



部屋の中を千鳥足で

うろうろふらふら


いつか絶対どこかにぶつかる… という不安から、大人しく座って と手を引けば半ば転ぶようにして床に座り込んだ。

勿論、いつものような畏まった正座ではなく、胡坐をかいている。



「…じゃあどうすれば良いの?」

「ヒック……んんー……そいじゃあー、キスー、しましょうよお」



獄寺は、へらりと笑って顔を、ずずい と近づける。


整った顔が近づいたからなのか、言われた言葉になのか、頬が熱くなるのを感じた。

それでも、そんな笑顔を断れるはずも無くて小さく溜息を付いた。



「…ああもう、好きにして」

「好きにさせて頂きまぁあすっ」



ビシッ と敬礼する獄寺に、ツナは苦笑する。


ガシリ と肩を掴まれて、思わず身を引く。

が、すぐに引き寄せられて。


その力強さに、体が傾いて、そのまま唇が重なった。



「…!…っ!!……ッッ!!!、…ぷはっ、これで満足した?」

「っしましたぁっ、10代目っ、愛してますよおおおぉ」



やたら長いキスの後、がばりと抱き付かれて。

半ば体当たりのソレに、ツナが耐え切れるはずも無く。


ゴン と痛い音を立てて、ツナは床に頭を打ちつけた。


押し倒されてしまった… と頭の中の冷静な部分でそう思う。

温かい体温が心地良くて、そろりそろり と獄寺の背に腕を回した。



「オレも、好き」

「へへ、…10代目…ずっと、お傍にいますからね…」

「うん」

「ずっと、……ず……っ、…と………」



獄寺の言葉が途切れてゆく事に、睡魔の訪れを感じた。



「獄寺君?……寝ちゃったの?」



背中を、軽く叩いてみて反応が無い事に、苦笑いと溜息が出た。

ゆっくりと体を離そうにも、重たくて動かない。


起きるのを待つしかないと、諦めて天井を見上げた。





ずっと、お傍に…





ふと浮かんだ言葉に、ニヤけてしまう顔を抑えられない。

目線を横に動かせば、幸せそうに眠る獄寺の顔があって…



「その言葉、信じてるからね」



さらり と銀色の髪を梳いてそう囁いた。

抱き締められた腕の力が強まった、気がした。