「うわああああああああああ!!!!!!!!!!!」

アレ

パシャッ



「……軋識さん、何してるんですかー?」

「ちょ、お前!順番が違うっちゃ!!その写メ消せ!今すぐ消せ!!」

「はーい、こっち向いて笑って下さぁい」

「舞織、お前ってヤツはあ!!」



舞織は手にした携帯を軋識へと向ける。

明るい部屋で、パシャ と意味のないフラッシュが光る。



夜も遅くに、悲鳴 ではなく、絶叫 よりも凄い、そう…雄叫びが家に響き渡った。

午前四時だ。



軋識の雄叫びによって叩き起こされた舞織は、怒り心頭しリビングへと足を運んだ。


そこには何とも理解し難い格好をしている軋識がいた。

どれくらい理解し難いかっつーと、ソファの上で空気椅子!ってくらい変だった。


いや、実際、そんなカンジのポーズだった。

ブルブル と震えながら中腰の体勢で、両手はアテもなく前倣えのようにして伸ばされていた。



舞織は一度開けたドアを閉め、二階へと戻った。

そして再び携帯を手にして戻ってきて、軋識の変なポーズ写真会を行っているわけなのだけれど。


これくらいしたってバチは当たらないと思うんですけど… と舞織は心中そう呟いた。



「仕方ないですねえ」



軋識が殆ど泣きそうな顔をしているので、舞織は、パタン と携帯を閉じた。

あとで待ち受けに設定しよう。



「で?何がどうしてそんな儀式をしてるんですか?」

「儀式じゃないっちゃ!アアアアアレが出たんだ!!!!」

「あれって…どれですかー?」

「アレはアレ!それ以外でもそれ以上でもそれ以下でもそれ未満でもないっちゃ!!!」

「はぁ」



さっぱり分からないと舞織が首を傾げていると、二階から物凄い速さで階段を駆け下りてくる音が聞こえてきた。

何かもう、殆ど転げ落ちてるんじゃないの?ってくらい。


でも、その音の発端者、人識がそんなドジを踏むはずがなく。


舞織がドアの横へずれるのとほぼ同時に、引き戸のドアが押され…ていうか蹴り飛ばされた。


バリーン!(蹴られて割れて)ガシャーンッ!(床にぶつかって更に割れて)ッドカーン!(そのまま壁に激突)

と、そんな音を立てて、哀れガラス戸は粉々に破壊された。



「うるせえええ!!!!」

「おはようございます、人識くん」



人識は一旦寝ると、自分で目覚めるまで周りが何をしようと絶対に起きない。


そんな人識くんを目覚めさせるほどの軋識さんの雄叫びって……超音波ですかね。

舞織は一人思考してほくそ笑んだ。



「ん、あ、おはよ。…って違ええぇ!!うるせぇうるせぇうるせぇよ!!!何だってんだよ、ああん?!」

「わたしも被害者ですよ、加害者は軋識さんです」

「…ああ、そっか。…で、大将。この落とし前はどうつけ……………何してだ?」



そこで漸く軋識に向き直って、人識くんの動きが止まった。


そりゃあそうだ。

空気椅子 on ソファを見せられて起動していられるはずがない。



「人識くん人識くん!携帯携帯!」



自分の携帯を指差しながら、早く早く!と舞織に急かされるものの、人識は訳が分からずに動けないでいた。

が、少々間を置いて理解したのか、ああ と意地の悪い笑みを残して二階へと駆け上がって行った。



そして



「ほうら、大将。笑えー」

「その表情こっちにもお願いします」

「お前らー!!」

「「だったらそのポーズを直せば良いのに」」

「ああ、そうか」



そうして漸く、空気椅子 on ソファは終了した。

舞織も人識も、画像フォルダを一つ分使い果たしてしまった。



ちょこん と大柄な体をソファの上に正座させる。



「…正座 on ソファ、の写真撮影会開始ですか?」

「違う、アアアアアアレアレアレ!!!!あああああああ!そそそそそこにいるアレがあ!!」

「あ、ゴキ…んぐっ」

「あはは、ゴキングって、何の進行形ですか、人識くん。あはは…は……は…?」



舞織の瞳が何かを捉えた。

瞬時に顔色が悪くなる。

青白ささえ漂わせて、舞織は目に涙を溜め、唇がわなわなと震えていた。


瞬間、人識と軋識は耳を塞いだ。


来るであろう脳髄を揺らす甲高い悲鳴に備えて。

どうせ塞いだところで威力は半減しないだろうけど…



「――――――――――ッッッッ!!!!!!!!きゃ…んぐぅっ!?」

「二人とも、静かにしなきゃ。ね?」



それを防いだのは、いつの間にいたのか双識だった。

ちなみに先程人識の口を塞いだのも双識だ。



「あんなオゾマシイものの名前を口に出しちゃダメだよ。伊織ちゃんも大丈夫?」

「ぷはっ…お兄ちゃあん!」

「よしよし」



がしり と抱き付いて離れない舞織を宥めて、人識に預ける。



「アスも情けないね」

「けど…」

「アスは残って。あ、人識と伊織ちゃんはおやすみなさい」

「え?」

「おやすみー」

「なさい」



二人が部屋を出たのを確認して、ソファの下に置かれたスリッパを取った。



「ちょ、レン…それは俺の…」

「私もね、ぐっすりと眠っていたんだよ?伊織ちゃんと手を繋いでお花畑を楽しく走っていた夢の中に出てきたのは何だと思う?」



双識が掴んだスリッパを片手に、ゆるりとソレに近づいた。



「さ、さぁ?」



双識が、ニコリ と笑んだ。



「アスの雄叫び」



双識がソレを大きく振り上げて……





スパアアァン!!!!





「ぎゃあああああああああ!!!!!!俺のスリッパがああああああああ!!!」

「アス、近所迷惑だ。…それと後片付けよろしくね」