「と、言うわけで、私達、昨日から夫婦だから」



夕飯のメニューはこれで決定 とばかりに、有無も変更も否定も拒否も質問も意見も感想も言わせない絶対を思わせる一言だった。

newly married life

ゴクッゴクッゴクッ

何かのCMの如く、持っていた湯飲みの中身を飲み干して、軋識は吸ってー、吐いてー、と大きな深呼吸を三度ほど繰り返した。



「………い、一から順に、説明して欲しいっちゃ」

「…どこからが一だい?」



一気飲みも深呼吸も軋識には無駄だったようで


ガダガガガダタタ

手が無意識に震え出し、ソレに握られた湯のみも共に揺れ、テーブルとぶつかって騒がしい音を立てた。



「多分、大将の場合はいつから付き合ってたのか が一じゃねえ?」

「っ人識は二人が…っ、そんな関係だったって知ってたっちゃか!」

「そんなってどんなー?」

「ひ、人識!!真面目に答えろっちゃ!」



見ていて気の毒なほど顔面蒼白に、軋識は息を乱した。

付き合っている事実をすっ飛ばして、結婚したという現実に、軋識は順応し切れていないらしい。


ま、付き合っているという事を知っていたところで、今と大差ない反応をして見せただろうな

と、人識は、吹き出したい思いを必死に押さえて、平静を装って肩を竦ませてみせた。



「んなおっかない顔すんなよ、知ってたよ。見てれば分かるだろ?」

「…分からなかった、っちゃ」

「………例えば、晩御飯作りの時は、必ず最低一回はキスしてるだとか」

「!?」

「あー、風呂もたまに一緒に入ってたな」

「!!?」

「夜、兄貴の部屋からは舞織の喘ぎ…」

「うなー!!」
「もういいっちゃ!!」



舞織は慌てて人識の口を塞いだ。

軋識は慌てて自分の耳を塞いだ。


共に、やはり可哀想なほど真っ赤になっていて、人識はいよいよ堪えきれずに吹き出した。



「ぶーっ、かははっ!おかし、もうだめだ、おかしすぎ…っ かはははっ!!」



げらげらと笑い転げる人識に、舞織と軋識は更に更にと顔を朱色に染める。



「人識、笑い過ぎだよ。大将が泣きそう」

「な、泣かないっちゃ!!」

「…泣くんですか?」

「泣かないっちゃー!!」

「ヒーッ、腹いた…かはっ、ははははっ!」



いつまでもいつまでも

人識の笑いが、腹筋の痙攣によって苦痛に変わるまで、話が進む事はなかった。