「お待たせし、」



パシッ



「へ?」



くるっ



「うあっ」



すとんっ



「………………あ、あの?」

「伊織ちゃん」

「はい?」

「ちょっと付き合ってもらおうかな」

「………」

秘め事

ちゅ ちゅぷ

卑猥な水音につられて、上がりそうになる悲鳴を、舞織は辛うじて飲み込んだ。

静かなそこだって、ドア一枚向こうでは、ざわざわ と騒がしい。


過ぎる不安も止まない緊張も、徐々に口付けで溶かされていってしまう。

激しい口付けが今度は興奮を呼び起こして、舞織は依然、ドクドク と早鐘打つ心臓の苦しさに眉を顰めた。


ニッコリ とした笑顔で、始まったそれは、爽やかな笑顔には不釣合いで非道徳的な行為だった。



「…っん、お兄ちゃ、」

「何だい?」

「やっぱ、り…い、やぁ…っ」



こんなところで、こんなことは… と涙を流す舞織に、双識は不思議そうに首を傾げた。



「そういう割りに、いつもより濡れているようだけれど?」



と、耳元で囁く声にすら、体が反応して下肢が、じわり と熱くなる。


下着をずらして中に挿入された指は一本。

一本と言えど、細く長く骨ばっているソレは、性感帯を的確に突いて舞織を喘がせてやまない。



「で、でも…っ、ん、ぁ あっ、あっ」

「伊織ちゃん、静かに、ね」

「う、アッ、ごめ…なさっ」



双識が腰掛けている椅子が低過ぎて、長たらしい足が苦しそうに投げ出されていて。

その上に向かい合うように跨いで座らされて。


噛み付くような口付けをされてしまえば、もう双識の言葉しか聞こえなくなる。


指が二本、三本と増えるにつれ、快感に酔いしれ出す舞織の表情は恍惚としていて艶めかしい。



「あ、あぅ…ッ も、…ヤッ」

「…欲しい?」

「んっ、ぅんっ、お兄ちゃ、…ッはや、くぅ…!」



しとどに濡れそぼるそこからは止め処ない愛液が溢れ出している。

下着を付けたままなのは失敗したなぁ… などと悠長な事を考えている双識を知ってか知らずか。

舞織は、苦しそうに眉を歪める。



「ね、…おねが…っ」



はぁ と双識の首筋に息を吐いて、涙を流して縋り付く舞織の髪を撫でて、

詫びとばかりに中に入っている指で、きゅうきゅう と締め付ける内壁を擦るように、ぐちゅぐちゅ と愛撫してやる。



「あっ、あっ ヤ、イヤッ!」



カタ と音がした。

舞織の喘ぎに混じって、古びれたドアが嫌な音を立てた。


愛撫したまま、ドアの方へ目をやれば、先程、舞織を阿呆呼ばわりした生徒だろうか…

一人の男子生徒が、愕然とした表情を浮かべて立っていた。



「何がイヤなんだい?」



不意に目が合って、目を細めて口元に人差し指を当てれば、その生徒は金縛りが解けたかのように顔を赤らめた。



「んっ、あ、お兄ちゃ、ので…イ、きたっ」

「うん?」

「も、いやあぁ…ッ」

「伊織ちゃん、静かにしないと、誰かに見つかってしまうよ?」



ほろほろ と涙を零す舞織はその生徒に気が付いていない。

ただただ、双識の愛撫に焦れったさを感じて、許しを乞うように双識に口付けた。



「お兄ちゃん…っ、ん、ふぅ…ッ」

「そんなに泣かないで。焦らしていたわけじゃないんだよ、痛がらせたくなくて、ね」

「い、痛くても…へ、きっ…だからァ!」



お願い と苦しそうに唇を噛み締める舞織に、双識は漸く中の指を抜いた。



「じゃあ、いくよ?」

「ん、う ん」



立たない腰を支えてやって、熱く猛る己を取り出して、貫くようにして一気に挿入した。



「ああぁあっ!」

「伊織ちゃん、しーっ、だってば」

「だ、てっ あっ!ま、まだ、だめっ!ひゃ、ああっ」



背を仰け反らせて悲鳴を上げる舞織を窘めつつも、双識のその口調は見つかっても構わないという程の軽口。

その証拠に、イヤイヤと首振る舞織を無視して、息付く暇も与えずに律動を開始していた。


甘美な喘ぎにうっとりしつつ、双識は先程男子生徒がいたドアの方へと目を向けた。

が、そこは既に誰もおらず、ドアもきっちりと閉まっていた。


これ以上見ていようものなら追っ払うつもりだったのだが、その必要は無いようだった。


クラスメイトの婀娜っぽい姿を、しかも、生徒からすれば実兄と交わるこの子の事をどう思ったか…

些か心残りではあるが、悪い噂が広まったら広まったで何か考えるとして。


今は、こちらに専念しなくては失礼に当たると、舞織を見上げる。


疎かにしていたつもりはないのだが、緩慢としていたのか、舞織自ら腰を揺らめかし、性感帯に当たっては、ビクッビクッ と肩を竦ませていた。



「伊織ちゃん」

「…あ、う…ッ…?」

「……ごめんね」

「?え、な…に?ッ、あんっ!」



首を傾げる舞織には答えず、律動を再開させる。

聞きたそうに口を開ける舞織のソレに自分のを重ねて、水音を絡ませて貪った。



「んっふ、ぅっ、ンンッ!!っは…ぁ…、!そ…な、奥は…っ」

「っ伊織ちゃん、締め過ぎ…ッ」

「やっ、壊れちゃ…ッきゃ、うっ!」

「――ッく…」



腰を引き上げて、ギリギリまで引き抜いて、ずぶり と奥まで貫けば、舞織は助けを求めるように首筋に縋り付く。



「あっ、や、ッイ……ッ!!」

「……ッう…く…っ」



子宮に届くような圧迫感に舞織はわなないて絶頂を迎える。

その予想以上のキツイ締め付けに耐え兼ねて、双識は舞織の中へと白濁とした思いをぶちまけた。













































「ひぐ、えっ、…うぇ…っく、」

「……」

「ッうぇえ…」

「伊織ちゃ…」

「うええぇん」

「………何で俺がこんな目に遭うっちゃ」



ぼろぼろ と大粒の涙を零す舞織を背負って、軋識は、げんなり と大きく溜息を吐いた。



「…伊織ちゃん…本当にごめんね。ちょっと苛々していて、私とした事がつい我を忘れてしまって…」

「ちょっと、つい、で中出しされたわたしって何なんですかあ!」



我を忘れて? 中出し?


聞きたくもない言葉の数々に、想像したくもないソレが浮かんできてしまったらしく、軋識は真っ青になって更に深い溜息を吐いた。



「…そういう話は俺を除いてして欲しいっちゃ」

「ッ!ダメ!いなくならないで下さい!わたしまた犯される!!」

「そうだよ、アス!君がいなくなってしまったら伊織ちゃんは私と取り合ってすらくれない…って!伊織ちゃん!

 犯すって!犯すって!?その表現は間違っていないかい?!」

「いません!」

「そんなきっぱりと!」

「……ああもう、電話に出なきゃ良かったっちゃ…」



涙流して怒り喚く舞織と、そんな舞織をおぶって被害を被った軋識と、怒られつつもどこか満足気な双識と…

まるで違う三人は、仲良く帰路を帰ったのでした。


そして舞織は、明日、体中の水分を使い切るほど涙を流す事になるのはまた別のお話。




裏祭りの一つでした。