わたしを軽々と抱き抱えたまま、二階へ上がる。

自室への扉を行儀悪く長い長い足で開た。


―この時、行儀悪いですよう、と非難したら苦笑いと共に額に唇が落ちてきた―


それから、ソッ とベッドに置かれて今に至る。


やっぱり落ち着かなくて、ちらりと見遣れば結構その気になっているようで。

足に当たるソレを気にしないようにしつつ、降ってくるキスを受け入れた。

におい

暗い部屋。

雰囲気漂う小さな明かり。

そこに響く、小さな水音。



「…っ、ふ…ぁ…っん…んっ」



眼鏡を外してベッドの脇の棚の上に置いて、ちゅっちゅっ と唇が幾度となく重なる。

可愛らしい音を立てて触れては離れる口付けに、舞織はもどかしい快感が、ジリジリ と迫ってくるのを感じた。



「少し…」

「…っえ、あ…っ、なにっ?」



ちゅう と飛び切り長いキスをされた後、ぽつり と双識が何か言った。

舞織は、自分の荒い息のせいでソレを聞き逃してしまう。


首を傾げた舞織に、言い直すべきか少し躊躇った挙句、結局言い直す事にした。



「…うん、少し、大きくなったね、って思って」

「は?」

「前触った時よりも大きくなってるね。自分でバストアップとかしたの?それとも私のお陰かな?」



何が? だなんて、そんな野暮な事 ―一瞬思っちゃったけど― 思わない。


いつの間に外したのか、上部4つほど外されたボタンの隙間から、その長くて骨ばった手が舞織の素肌に触れていた。



「それから、これも。買ったの?」



これ と言って、小指でブラジャーの紐を、クイ と引っ張られた。



「伊織ちゃんの趣味じゃないよね?…もしかして私のためだったりする?」



それは全体的にレース基調のピンク色をした可愛らしいブラジャーであり、舞織はこういったふりふわを嫌っているのを双識は知っている。


何せ、通販か何かの下着CMでそう言った柄の物が出てきて、双識が、これ可愛いね なんて言うと

舞織は酷く、そう…まるで何か別の人種を見るような瞳で見てきたから。


だからこれを見た時、可愛いと思う気持ちと同時に、どうして? が浮上したのだった。


期待してしまって…良いのだろうか?


そこで舞織を見遣れば、手で顔を隠してしまっていた。



「い、いおりちゃ」

「あ―――っ!もう!そんな事言わなくて良いですよう!」



そんな風に顔を隠されて、真実を隠されては、意地でも聞き出したくなると言うのが男のサガというもので。

ちょっと力を込めて、その顔を隠す腕を退ける。



「…全部、私のためなの?」

「………………う、ん…」



小さく小さく、真っ赤な顔で頷く舞織に、嬉しさが込み上げる。


雑誌やネットで、それを調べてバストアップに励む姿だとか、嫌そうな顔をしつつも、ランジェリーショップや通販でソレを買う姿だとか。


それら全てが、私のためであるだなんて、喜ばずにいられるはずがなかった。



「…お、おにいちゃん、…あ、あの」

「ん、うん?…何だい?」

「…似合う…?」



くらり と眩暈がした。



舞織がそう聞きたがるのも、無理はない。

双識のためとはいえ、自分の趣味でないものを買って、違和感と不快感と不安があるに決まっている。


見上げて、恐る恐るといった風に聞かれて、双識はどうしたものかと、眉を顰めた。

本当はベッドの上をのた打ち回りたいほどの激情が襲ってきているのだが、この状態で舞織の前でできるはずもなく。


沸き上がる感情を必死で抑えた。

けれど、溢れ出る欲望は抑えられる気がしなかったし、抑える気もなかった。



「お、おにいちゃ…ひゃっ」



反応がない双識に、不安そうに呼びかけて、それは突然悲鳴へと変わる。



「…すごく」

「…えっ…?」

「すごく似合うよ」

「…あ、ありがとうございま、…っひゃう!」

「こっちも、すごく可愛い」



そういって、そのブラジャーをたくし上げて、以前より大きさを増したという、乳房に手を添えた。

片方をゆるゆると弄って、もう片方、色付く突起を口に含んだ。



「…っぁっ、あっ、お、おにいちゃ…そんな急にっ…、ふあぁ…っ」



いやらしく這う手と、生暖かい口内に含まれ舌と歯で刺激され、意識とは無関係に舞織の腰が浮く。



「気持ち良い?」

「ひぁ…っ、しゃべ、んな、で…っ…んっ、んぅ…っ」

「だって、気持ち良い事してあげたいじゃないか。だから答えて、気持ち良い?」

「…ああっ、うん…っ、きもち、い、から、ァ…やっ、あッ!!」



舞織が更に目を瞑る。

ぎゅう と閉じた瞼、目尻から涙が一粒零れ落ちた。



「本当。濡れてる…」

「言わないで、下さいよ…う」

「うん、ごめんね」



よしよし だなんて、髪を撫でられて。

ゆっくり目を開けると、そこには優しく微笑む双識の姿があって、ホッ としたのも束の間。



「ひぅっ…」



腰の辺りを行き来していたその手が、太股を、するり と撫で上げてから、その足の間の草叢へと到達する。



「息吐いて」



それだけ短く告げて、もうなすがままの舞織はふぅと小さく息を吐いた。

双識はその隙を逃さずに、花弁を開き、奥へと指を1本、挿入した。



「ああぁあっ!!…やっ、あぁ」



じゅぶじゅぶ と埋る指に、体が、ぶるり と粟立った。


突然の刺激と、異物感に、頭が混乱してくる。

何かを拒むように首を横に振れば、双識は困ったように笑んでから優しく呼んだ。



「伊織ちゃん、大丈夫?」



そんな風に切なげな瞳で囁かれて、無理だと答えられる子が、この世にいるのか聞きたい。

今度はゆっくりと、首を横に振った。



「すぐに、気持ち良くしてあげるから、泣かないで」



ね? と言って、優しく唇を食まれる。

恐る恐る舌を出すと、やんわりと絡められて吸われて歯で甘く噛まれて、舞織は、とろんとしてくるのをどこか、遠くでボンヤリと感じた。



「…んっ、んんぅ…っ、んくっ、…ふ、はぁ…。ッあ、ぁっ、あぁっ」



最後に上唇を優しく食まれて、唇が離れる。

透明な糸が、二人の口の間にできて、すぐに、ぷつり と姿を消した。


骨ばった指は、舞織の中をぐるぐると蠢いて、舞織は甘ったるい嬌声を上げた。



「二本、入るかな」

「…ぅ…ひ…ぁっ…あぁあっ!」

「ねぇ伊織ちゃん」

「…ああっ、な、何ですかっ?…ふ、…ぅ、っあ」

「結局あのにおいの発生源は誰なのかな?」

「……ぇ?」



そう言ったきり、双識は指を動かすのを止めた。

舞織が非難の目で見つめても、それは変わらなかった。



「……んー…と……」



ううん と悩み出した舞織に、双識はほんの僅かな苛立ちを覚えた。



「っ痛っ、な…?」

「ああ、気にせず思い出していて。印を付けると言ってまだ付けていなかったからね」



ほら、白いから赤が良く映えるね だなんて、指差された先、鎖骨の辺りが鬱血していた。



「…暫くラフな格好はできないですね…」

「露出度の高い服は許さないよ」

「わたし、そんな服着ないですよ」

「良いからほら、早く思い出して。思い出すまで付けるからね」

「そっ、そんなぁ!」



その宣言通り、首筋に、ちくり とした痛みを感じた。


そんなトコ、丸見えじゃないですか…

舞織は内心ぼやいた。


このままでは何かのアレルギーの如く、鬱血だらけになってしまう。

それだけは防がなくてはと、舞織は目を閉じて過去の記憶を辿った。



「…あ…っ、の、お、お兄ちゃん」

「何だい?」

「いえ……っは、ぁっ」



至極満面の笑みで返されて言葉を失う。


鬱血は増える一方、奥に埋められたままだった指も活動を再開したようで、二本の指は、舞織の中をバラバラに動いた。



「…ぁっ、でも…おにいちゃ…っ、これじゃ、思い出せな…ひゃあぁ、ん」

「うん、頑張って。これ、お仕置きって名目でやってるから」

「そんな、ぁっ…ああぁっ!、胸は、もう、ダメっ、って」



赤く腫れ上がった突起を再び口に含んだ。


銜えてくれと言わんばかりに主張してるから。

だなんて、そんな言い訳聞いた事がない。


早く早く と急かしてみれば余計ドツボに嵌ってしまって、舞織は知らず知らずに腰を揺らめかせた。



「…ぁっ、は…、おにいちゃ……っも、おねが…っ…おかしくなっちゃ…う、よお」

「これじゃあ、お仕置きの意味が無くなっちゃうのだけれどね…仕様の無い子だね、こんなにだらしなく涎を零して」

「…ふむ…ぅ…っんんっ…んぁあっ」

「一度イっておこうか…私も、そんなに我慢強く無いからね」

「…っあ……はっ、ひ、ぃっ…」



三本も入るの?

と笑んだ双識を睨んでみるものの、滲んだ視界では双識がどんな顔をしているのかハッキリとは分からなかった。

それに、本当に一度イかせる気らしく、三本の指の動きが性急さを増した。


ぐちゅぐちゅ と響く水音は、目を閉じれば、余計大きく聞こえてきた。



「ほら、イって良いよ」



一番反応するところを、爪先で、コリコリ と刺激する。

それがトドメと言っても過言ではないだろう。



「…ッひあ…ッ……あああぁッッ!!!」



瞼の裏で、閃光が煌いて、背が一層仰け反った。







分かったかも。





ぼんやりと混濁した意識の中、ある人の顔が、霧がかったものの見えた。



「…ッ、あ…」



ちゅ と音を立てて指が抜かれた。

舞織の背が弓形に反った。

今となっては舞織の体は、ほんの些細な事に対しても過剰なほどに反応して見せた。



「伊織ちゃん…ごめん、もうダメかも……痛かったら止めるから…」



良い? と問う前に、舞織は小さく頷いて見せた。


その動作を確認して、指に纏わりつく愛液をそのままに、充血しきった己の屹立した竿を寛げたズボンから取り出して、舞織のソコに宛がった。



「ひっ、アッ…」

「ごめん…っ、…く…っ」



苦しげな顔をさせて、何度も謝りながら、ゆっくりゆっくりと、中へ挿入させていく。

充分時間を掛けて全て挿入し切った後、キレイな方の手で髪を梳かれた。


相変わらず圧迫感は酷いし、痛いんだか気持ち良いんだか分からない。

けれど、双識の顔があまりにつらそうで、舞織はゆっくりと両手を伸ばして双識の頬を包んだ。



「大丈夫?」

「お兄ちゃんの、方が、…辛そうだよ…」

「ただでさえ背徳的な事なんだ。これぐらい、どうってことないよ」

「…わたしは…」

「え?」

「っ…」



舞織は呑まれそうになる意識を必死で引き止めるように、双識の首に縋った。



「平気だから、…動いて、」

「…伊織ちゃん」

「お兄ちゃんが悲しいとわたしも、悲しいです」

「…伊織ちゃん…」

「ね?…お……双識さん」

「…ありがとう、伊織…」



言葉が終えるのと殆ど同時に、ぐちゅり と繋がったところから水音が響いた。


ビクリ と舞織が体を竦ませたのが肩越しに伝わってきた。



「…ッあ!……ぁあっ、…あっ、そ、…っそ、しき、さぁっ…ひぁあっ」

「ッく…伊織…っ、…名を…もっと名を呼んで…」

「ふぁっ、ああぁっ、双識さ、っ、……ッや、も…イっちゃ…はぁっ、ん」

「私も、長くもたないね…」



そう苦しげに微笑んで、唇が重なった。

唇からも、繋がったところからも、卑猥な音が鼓膜を刺激して、ゾクゾク と鳥肌が立った。



「ッ、あ…ッ、そうしきさ、ッ…ああっ、そ…っう…っ」

「…ッは、ぁ…な、に?」

「…好き…ィ…ッ」



その笑顔が

怒った顔が

苦しそうな顔が

ありきたりなドラマで大号泣しちゃう貴方が

その髪を撫でる手付きが



全部全部


アナタを構成しているその全てが、愛しくて堪らない




大好き




「好きぃ…ッ!」




ボロボロ と涙が零れる。



愛しさを伝えたいのに、伝わらなくて

好きで好きで、それが頬を伝って零れ落ちてゆく、次から次へと止め処なく…



「私も…好きだよ。伊織…ッく…っ」

「…ぁ、は…ッ、そ、しきさ、…ッ一緒に…っ」

「ああ…ッ…一緒に、…ッくぅ…っ」



一際大きく、子宮に届きそうなくらい深く貫かれて、さっきとは比べ物にならないほどの閃光が瞼の裏を占めて、絶頂を迎えた。


双識もその締め付けに耐え切れず、あとを追うようにギリギリの所で抜いて、舞織の腹にその白濁とした欲望をぶちまけた。


* * *


後日――





「お兄ちゃぁん、お腹空いたー」

「今、持って行くからちょっと待っててね」

「兄貴ー、俺ドリア食べたいー」

「レン、俺はラーメンっちゃ」

「ああもう分かったから、ちょっと待ってて」



人識と軋識は、次の日の朝六時に早々と帰宅し情事後余韻を味わう間もなく爆睡モードに入っていた舞織と、

情事後の後片付けを漸く終え、これから一眠りしようとしていた双識を叩き起こした。


舞織たっての要望で、腰が痛む彼女を人識が引き摺ってソファーに寝転がす。


三人揃って口々に豪勢な朝食を注文するのに対して、双識は苦々しい顔をしながらも、作ってのけた。

この時舞織は双識を見ながら思ったのだった。


お母さんだ!

と。


その皆のお母さん、双識はそれぞれにそれぞれのモノを作ってあげ、ソレをそれぞれが食べている時、舞織が切り出した。



「においの発生源はですね、先生ですよ」



あちっ と冷まさずに口に運んだおじやの熱さに舞織が水を飲み干した。



「…先生?」

「わたしを目の仇にしてる数学の先生です」

「学校のっちゃか?」

「ですよー」

「すんげーにおいさせてんだな、その先公は」



あの臭いを思い出したのか、人識は眉を顰めた。



「ですね。数学授業が多い舞織ちゃんですから、私自身の嗅覚の麻痺と、セーラー服に染み付いての事かと…」



ご迷惑掛けました としょぼくれる舞織に、三人は首を横に振った。



「ファブ代請求してくっか」

「…特売品だったのに?」

「悪徳にいこうぜ、舞織」

「人識くん、悪徳ー」



うふふ と悪戯っ子のように話を進める舞織と人識を横に、軋識は双識を見遣った。



人識と舞織のやり取りを、ニコニコ と見つつ、その手の中のスプーンは、哀れVの字にひん曲がっていた。




このサイトでの初裏です。恥ずかしー。