キィコ…キィコ…


夕暮れの公園


ブランコに影二つ

ブランコの柱に袋三つ

お願い

「わたしね」

「うん?」

「お兄ちゃんが大好きなんですよ」



うふふ と微笑めば

同じように、眼鏡越しに優しい笑み。



「ありがとう。私も、伊織ちゃんは私の命だよ」

「命?重いですね」

「命だからね」

「人識くんも、軋識さんも、命?」

「そうだね、家族は私の命だよ」



ふむ と危なくもブランコから手を離して、腕を組んで思考。

次の瞬間、またニコリと笑んだ。



「じゃあ、わたし達の中の一人が絶対に死んでしまうのなら、誰を殺す?」

「殺す と聞くのは間違ってないかい?」

「殺すで正解ですよ」

「何故?」

「誰かに殺されるより、自分の手で殺してあげたいと思うから」



間違いかな と寂しげに笑う。


ゆるゆると首を横に振れば

だよね と女の子らしい笑顔に戻った。



「で、誰を殺す?」

「決まってるよ、零崎双識を零崎双識が殺してあげる」

「ぶっぶー、それは間違いですよ、お兄ちゃん」



ザザッ


ローファーの踵を擦ってブランコ止めて、妹は楽しそうに笑んだ。

私も微笑み返した。



「どうして間違いなのかな?」

「わたしがお兄ちゃんを大好きだからですよ」

「うん?」

「その人がいてこその自分の価値が、その人が死んでしまう事で零へと変わる…つまり、生きた屍になってしまうんですよう」

「ふむ、それは困るね。愛しい私の家族達には死んで欲しくないのだけれどね…」

「うふふ、降参したら答えを教えますね」

「じゃあ降参。正解はなに?」



早いなぁ、もう と声に出して笑ってから、ブランコから降りた。


ニコリ と微笑んで、自分の前に立つ。

夕日をバックに、表情が読み取れなくなる。



夜が近い。





「零崎舞織を零崎双識が殺してあげて」





妹は、はっきりと言った。


軽く

重く


まるで、晩ご飯のメニューを決めるかのように

まるで、今から自殺する事を宣言するかのように


はっきりと言った。



私が、君を?



「何故?」

「何故?」



何を言っているの? と言いた気に、くるりとした瞳がこちらに向けられた。



「好きな人に殺されるなら、それは本望であって。好きな人を殺すのであれば、それも本望。

 お兄ちゃんはわたしを殺めて、後悔して懺悔して自分を憎んで恨んで泣いて叫んで、わたしを思い続けてくれるでしょう?」



だから、お兄ちゃんにお願いするんだよ。


人識くんでも軋識さんでも無く双識さんに…



夕闇に染まる公園。

風が、少し肌寒い。



双識が、クスリ と笑う。



「勝手な奴だ」

「人間て独り善がりなものですからね、うふふ」



ガサガサ

ビニール袋を掴んで、ふらふら 歩く。



代わりに自分が持って、妹には鞄を持たせた。



「もう帰りませんか?大体、何でブランコなんですか?花の女子高校生がブランコなんて…バレたら皆に笑われちゃいますよう」

「ブランコに乗りたいと言ったのは誰だったかな」

「人識くんです!」

「ここに人識はいないよ」

「わたしの心にいるんですよ」

「うふふ、それは羨ましい限りだ」

「嘘じゃないですよう、皆いるんですよ、お兄ちゃんたち全員、ここに。繋がってるんです」



トン と自分の左胸に手を当てた。


ドクリドクリ

自分が生きている証が聞こえた。



歩く道。

自分の影を見ながら歩いた。



ふと、思って、足を止めた。



「じゃあ、伊織ちゃんを殺してしまったら、皆、死んでしまうね」

「うふふ、そうですね」

「それでも殺して欲しい?」

「そうせざるを得なくなったら是非」

「覚えておこう」

「ありがとう」





遂には、影すら、見えなくなった。