このお話はトキこと、零崎曲識がメインのような曲舞話になる予定です。 トキはまだ原作にすら出ていない子なので、勿論ここより先に出てくるトキは捏造のみのものとなります。 ですのでソレを踏まえて 原作にトキが出てきた時に苦情を言わない方のみの閲覧でお願いします。 どんと恋な方のみスクロールでどうぞ〜。 そうして振り向いた先にいた彼は、この世の何よりも冷たい瞳で、わたしを見ていた。 確固たるその意思の名の元に 別に見ていたわけじゃないかもしれない。ただ視線の先にいるだけ、視界に入っているだけで、特に認識も意識もしていなかったかもしれない。 舞織の背後、悪寒の正体は予想通りというか何というか、やはり零崎曲識に他ならなかった。 曲識はあの日、初めてあった人と同じ格好…というには語弊があるかも知れないが、 今日も今日とて高級そうな真っ白なスーツに身を包んでいた。 そして惜しげも無く、ソレを赤でいっぱいに濡らしていたのだった。 「ま、曲識さ…ん」 先程の呼び掛けにも答えなかった彼だ、どうせ眉一つ動かさないのだろうと思っていた。 思っていても呼び掛けてしまうのは、この重苦しい沈黙を何とか打破したいと、そんな切なる願い。 軽い呼吸困難に、舞織が小さく咳を始めると、曲識は何の感情も見せずに眉を顰めた。 それは何の感情も無いに関わらず、怒っているような不快そうな表情に思えてならなかった。 「そ、んなに…ケホッ、怒るなら…っその威圧、何とかして下さいよう…っ!」 「お前が単に当てられているだけだろう」 「あ、喋った」 普通に返答されて、舞織は息苦しいのも忘れて、驚きに目を丸くした。 と、曲識が下ろしていた手をスッと上げた。 それと同時に、ぽた と何かが床に滴る音がどこかで聞こえた気がした。 「ひゃ、な、殴らないで下さいよう!」 威圧的に手を振り上げられれば誰でもそう言いたくなるというものだ。 舞織は痛みに備えて目を瞑る。 瞑りながらフと思う、きっとこの人は痛みも何も感じさせずに人を殺めそうだなぁ…と。 「……?……き、」 だがいつまで経っても訪れない変化に、舞織がそろりそろりと目を開ける。 「軋識さん…」 言って普通に呼吸ができる事に、舞織は肺まで思い切り息を吸い込んで、それから吐き出した。 曲識の後ろ、振り上げた手を掴んだ軋識は、舞織が聞いた事の無いような声色を向けた。 「何をやってる」 「離せ」 「コイツには触れるなと、警告したはずだ」 「それを守る義務があるのか?」 「当たり前だっちゃ、女と見れば見境無しに」 「人聞きの悪い、…離せ」 淡々と続けられる会話は、曲識が軋識の手を振り払った事で終了した。 曲識は、どこからともなくハンカチを取り出して軋識の触れた部分にソレを当てる。 数度往復させて、ハンカチを落とし、スと片足を出した。 「…」 曲識は一瞥、舞織を見遣ってそれっきり。 足音も無く、曲識は階段を上っていき、間も無くして遠くでドアの閉まる音が聞こえた。 「………はぁ」 軋識が不意に溜息を吐いた。 これ見よがし、盛大に。 舞織は、自分が何をしたわけでもないのに、妙な申し訳なさに襲われ、俯いた。 「…ったく、お前はなぁにやってるっちゃ」 「…す、すいませ…ん」 「大丈夫か?」 「ちょっと、腰、抜けそう…です」 そう言って舞織は、酷くゆっくりとした動きで床に腰を下ろした。 軋識は呆れた風に溜息を吐く。 「そんなトコに座るなっちゃ、風邪引く」 「うふふ、お兄ちゃんに心配されちゃいますね」 「ああ、何か温かいの入れてやるから立てっちゃ」 「うな、珍しい、軋識さんが優しい」 「べ、別にそういうわけじゃ…っ」 「そんな事しても空き缶は片付けてあげませんよー」 「…チッ」 「うふ、抱っこして下さい」 「………」 曲識さんがヒヤリと冷たい。 その代わりに、軋識さんが気持ち悪いほどわたしに優しくなっていた。 |