「萌太君は美人さんだけど、だけど、そんな顔、しなくても良いと思うですよ」



姫姉はある日、そんなことをぽつりと呟いた。

蚊の鳴くような消え入りそうな声で、はたまた聞こえていようがいまいがどうでも良いのか、一人ごちるように、姫姉は呟いたのだった。


僕はまだ幼くて、幼さが大人を意識させて、爪の先までうんと伸ばして背伸びをしていた、そんな頃。

追いつきたくて追い越したくて、余裕を見せたくてリードしたくて、悟られないよう悟らせないよう、僕は笑っていた、そんな頃。



「萌太君、そんな笑顔の人生は、楽しいですか」



姫姉はまたある日、そんなことをぽつりと呟いた。

それは僕があの時から少し成長して、世間の汚さやいやらしさやばかげたものものを嘲られるまでに大きくなった、そんな時。


姫姉の声は、あの時同様、何かに掻き消されてしまいそうに小さくて、僕は守ってあげたい衝動に駆られた。

あの時から変わらず小さくて、僕の背が伸びた分余計小さく見えて、比護欲が掻き立てられた。



「癖、みたいなものですから」



楽しいとか面白いとか、そういったものとは違いますよとすっと肩を竦め、目を細めて笑った。



「姫ちゃんは、萌太君を…怒らせてみたいなあ」



そう言う姫姉の声は、いやに明瞭で透き通っていて…耳の鼓膜をいつまでも震わせるように音が頭の中で木霊していた。



「姫ちゃんは、騙されてなんか、やらない」



言って、姫姉は、薄く笑った。

その顔は、どこかの何かを思い出させるようで、まるでデジャヴュ、いや、それともジャメヴュ?


そう考えて、一つの結論に至る。

ああ、そうか、これっていわゆる

同族嫌悪。

ちょっと、いや、かなりショックかも。