ちょっとした思いつきだったんですが…中々どうして良いものですねと萌太は楽しそうに小さく呟いた。

あんちゅうもさく

真っ暗な闇。夜よりも深い、黒に程近い、前も後ろも右も左も分からない、闇。

果たして、自分の目は今、開いているんだっただろうか…それとも閉じているから見えないのか…

それさえも分からない、いや、分かっていたはずなのに、分からなくなってしまった。


暗闇に持っていかれてしまった光、鮮明で色とりどりの世界。


目が見えない人はいつもこんな真っ暗な闇にいるのだろうか…


一姫がそんな的外れな思考を巡らせていると、ツと背中に生温さを感じ、肌を震わせた。



「っ、…も、萌太君…?」

「どうしました?まだ寒いですか?」



背中に感じたその生温さは、ツツと下から上へ、這うように上り、消えていった。

辿った道筋が…どうしてだろうか。スースーと冷えていく。


自分の声に返事をした相手は、一体どこにいるのだろう。

両の手を探るように動かしてみるが、ぽんぽんと触れるのは自分の下に敷かれている布団一枚のみ。


ピピッ、と音がする。恐らく冷暖房機の音だ、分かったところでそんな音にさえ、ビクリと体が竦んでしまう。

見えないとはこういう事なのかと暗闇の恐怖が自分の中へ擦り込まれていくのを覚えた。



今日はちょっと違う事をしてみませんか?という笑顔に始まって三十分あまり。


常のように暗がりで服を脱いで、暖かい体を熱くさせるような行為が始まるのかと思いきや、その暗闇を更に濃くさせられてしまった。

いつもは眩しいほどの黄色をしているソレを、頭の後ろでご丁寧にリボン結びまで施して、一姫の視界を奪った。


黄色のソレ、一姫のリボンは明るいところでは綺麗な黄色だが、暗闇には勝てず、視界は暗い。

柔らかな布団の上、一糸纏わぬ姿のまま、放っておかれて三十分あまりで現在に至る。



「萌太くーん…」



不安げな声が宙をふらふらと浮く。

伸ばされた手を掴むと、一姫の口元がほっと息をついた。



「ひゃうっ」



指先を舐められた、のだと思う。

これは先程、背に感じた生温さと似ていた。

つまり先程のアレは背を舐められたという事になる。

恥ずかしさにカッと頬が熱くなる間もなく、中指を緩く噛まれた。



「姫姉、…その舐めている人が僕じゃなかったら…怒りますか?」

「え?ええ、え!?そ、そんなの嫌ですよ!姫ちゃんは…!」

「そうですよね、僕にされるのが良いんですよね」

「ち、ちが…っ」



突然として唇にあてられた温もり。萌太君の手だと認識する前にその指が口内へと押し入ってくる。



「…僕がしたように、してみてください」

「もへはく…」

「何を言っているのかさっぱり分かりませんよ、姫姉」



口の中、細く長い指が一姫の舌をグと押した。

苦しさに小さく呻いてから、耐え忍ぶようにその指に舌を絡める。



「姫姉、僕の指って美味しいですか?」

「……っ、」



同じように、というので、その指に歯を立てる。

仕返しとばかりに、少し強く。


痛いですよなんて窘める声、するりと出ていった指に大きく息を吸い込む。

閉じられずにいた口の端から零れた唾液を、手の甲で拭う。



「っ、ひゃ」

「ん?ああ、冷たかったですか?」



唾液に濡れたその手は空気に晒されてひやりと冷たい。

すみませんと悪びれない侘びが聞こえたが、胸にあてられたその手は動きを止めない。


露出した肌は部屋の暖房によって寒さを感じずにいるが、視界を奪われた今、五感が冴え渡り、一つ一つに酷く敏感だ。

後ろから聞こえる衣擦れ、降ってくる声、温かかったり冷たかったりする肌。


きゅうと胸の突端を摘ままれると、いつも以上の痺れが、体を走り抜ける。



「姫姉、いつもより気持ち良さそうですね」

「そ、そんなことは…」



肩を押され、ゆっくりと布団に沈められる。

大丈夫だと安心させるような口付けが額に落ちるが、言動の違いに不安は増すばかり。



「無いと、言いきれますか?」

「っ、ぁ」



ほら、やっぱりと萌太が薄く笑った、ような気がした。

覆い被さる気配がする。


立てた膝に腕が触れたので、慌てて足を閉じようと力を込めるが、どうも間に合わなかったらしくソレは叶わない。

ぐいと広げられた足の間に体を入れ込んで、下肢に手が伸びる。

濡れそぼる秘所に指が宛がわれ、期待と不安に背が小さく仰け反った。



「いつもより、濡れてる」

「や…い、言わないで下さ、」

「どうしてですか?僕としては嬉しい事なんですよ、姫姉にはちゃんと気持ち良くなってほしいから…」



姫姉は違いますか?と、そんな意地の悪い質問を投げかけられて、純粋な少女が否と答えられると思っているのだろうか。


一姫は唇を噛み締めて、小さく首を振った。

そっか、良かった、と笑う声に、騙されて。


濡れたソレに誘われるように骨ばったその指を奥へと挿れ込んでいく。

暗闇に慣れた瞳でその顔を伺い見れば、どうやら苦痛はないようで。

萌太は小さく安堵の息を零した。



「姫姉、いいところ、僕に教えてください」

「っ、や…ま、まだ…っ」



ダメと言う前に、指を中でグイと折り曲げる。



「っあ、あっ」



仰け反った喉に唇を寄せれば、チクリとした感覚に一姫が眉を顰めた。



「や、も、もえたく、あ、あぁっ」

「すみません、一本じゃ足りませんね」

「ち、ちが…っひあ、ぁっ!」



零れる液に滑るようにして中指も挿れ込んで、きゅうきゅう締める肉壁を動いて、引っ掻いて。

爪先を突っ撥ねて、ふるふると震える体に口付けて、奥の方を爪で引っ掻く。



「っんああぁ!、も、萌太君!や、もえたく…!」



ただ一心に、名前を呼ぶ一姫。

前も後ろも見えなくて、そんな中で必要とされる存在であれる自分というのは何とも心地よいものだった。

埋めていた指を抜いて、その小さな体を抱き締める。



「…も、えたく…?」

「すみません…姫姉。本来なら、もっともっと気持ち良くさせてあげたいんですが…」



小さく上下する胸、口の端にてらてらと光る唾液の後、赤く染まった頬、白い体に散る鬱血の跡。

熱くなる下肢に若さを憎んで苦笑すれば、一姫の両手が見えないはずの萌太の頬を包んだ。



「いいですよ、姫ちゃん、萌太君のものですから」



好きにして下さいと投げ出すような、そんな物言い、本当は嬉しくないはずなのに。

もっと自分を大事にして下さいとか、そんな気の利いた言葉の一つでも欠けるべきなのに。



「すみません」



小さく零れたのは侘びの一つで。



熱く猛った逸物を、柄にもなく焦りにもつれる手でもって取り出して、しとどに濡れそぼる秘所へと宛がわれる。

グチと濡れた音がして、息が詰まる。



「…っ」

「…息、吐いて下さい、ひめ、ねえ」



幾度やっても慣れないその恐怖と圧迫感と、底の知れない、自分でなくなってしまうような悦楽を思い出し、身が竦む。

大丈夫ですからと汗に濡れた髪をそっと払い除けられて、小さく小さく息を吐く。



「っ、ひ、ああっあ、ああっ!」

「姫姉、…静かに」



身を裂くような痛み、息ができなくなるような痛みに、一姫の瞳に涙が滲んで、視界を覆うリボンがソレを吸い上げた。

泣かないでと小さい呟きが聞こえる。それからリボン越しにふわりと口付け。

痛みに耐えるための支えが欲しくて手を伸ばせば、こっちですよと促されるように背へと回される。



「も、えたくん…っ」

「ひめ、ね…動きます、よ…っ」

「っ、あ、ま…っ、待、ひゃあああっ!!」



細い足を肩へ抱えて、奥へ奥へと。

ぎちぎち締められて、達しそうになるのを噛み締めて堪えて、中へと打ちつける。



「あ、あっ、も、もえたく…っふああっ、ああっ」

「姫姉…っ、ひ、…姫、ねえ!」



肌が打ちつけられる音と、それにあわせて上がる悲鳴、煽るように響く水音と、煌めくような汗。

ふやけるほどに口付けると、一姫が萌太の頬を包み込んだ。



「もえた、く…っ」

「…どう、しましたか…?」

「か…かお、見たいです…」



汗に濡れて色濃くなったリボン、後ろで結ばれた結い目を解くと、赤く濡れた瞳とかち合った。



「久しぶりに見た気がします、ね」

「ええ、そうですね」



息つけぬほど深く口付けて、せめて最後の声は呑み込んでしまいたいと口付けたまま、最奥を貫いた。



「んんぅ――――…っ!!!」



ぼろぼろと零れる涙の罰とばかりに、達ってしまった一姫のギュウとした締め付け。

耐えろと唇を噛んでギリギリのところで己を引き抜き、その赤い鬱血の残る肌を白く汚した。