カ ン…ッ

と音がした。


カーテンを開いて、窓を開けて。

暗闇の中、ソレを探して目を凝らす。



「舞織、こっちだっちゃ」



ヒソリ とした声があらぬ方から聞こえて、舞織はそちらに目を向ける。

門のところで何やら動いているのが見えて、思わず身を乗り出して手を振った。



「軋識先輩」

「っバッ、声抑えろ!」



声を出すのと同時に、舞織よりも大きな声がソレに被さった。


軋識が何から隠れているのか分からず舞織は首を傾げたが、すぐに思い至って、あ と声を出した。



「大丈夫ですよ、軋識先輩。今日は玄関から入って来て下さいな」

「は?どういう意味だっちゃ」



良いから良いから と顔は見えぬがきっと可愛らしく微笑んでいるのだろうそんな声が聞こえた。


そして軋識の訝しむ声などお構いなしにすぐに窓が閉まってしまって、さてどうしたものかと軋識は眉を顰める。

玄関から入れと言われて入れるほどの肝は持ち合わせていない。


ドアノブに恐る恐る手を伸ばすものの、突然早鐘を鳴らし出す心臓に緊張が高まってドアにすら触れられない。



「もー、入って下さいってば」

「うわ」



突然ドアが開いて舞織が顔を覗かせる。

驚いて一歩後退る軋識の手を掴んで、舞織は軋識を玄関へと入れ込んだ。



「寒いんですからさっさと中に入りましょう」



ほら、こんなに冷えてる と舞織は玄関に立ち尽くす軋識の両手を包みこむ。



「…ま」

「こんなに寒いのに、来てくれてありがとうございます」

「あ、ああ」

「うふふ、軋識さん顔も真っ赤ー」



わー、冷っこい と先程したように舞織が軋識の頬に両の手を添えた。



「…今日は、何で玄関から入れるっちゃ?」

「今日は家族が外食しに行ってるのでこの家には舞織ちゃん一人なのです」

「お前は置いてけぼり食らったっちゃか?」

「そうなんですよう、ちょっと部屋で居眠りしてたら置いてかれちゃったんです」

「残念だったな」

「んー、…別に言われても一緒には行かなかったわけなんですけど…」



けど、一声掛けてくれたって良いと思いません? と舞織が口を尖らせると、軋識は、さぁな と肩を竦めた。



「それにしてもお前は相変わらず何て格好してるっちゃ」

「可愛いですかー?」



うふ と舞織は軋識の前で、ひらり と一回転してみせる。

黒いシフォンのワンピースがソレに合わせて、ふわ と揺れ、一瞬だけ細い太股までが露になった。


端を掴んで可愛らしくお辞儀する舞織に、思わず笑みが零れる。



「…何つーか、エロいな」

「あー、胸元とかですか?うーん、普通だと思うんですけど…でもこの胸元のリボンが可愛くてつい買っちゃいました」



ほらほら と舞織に胸元を指差されて、軋識は軽い頭痛に掌を額に当てる。

ハァ と息を吐いてから、どうせ、アレをしに来たわけなんだし と言い訳して、舞織の手を掴んだ。



「軋識さん?」

「舞織」

「はい」

「やるぞ」



履いていた靴を乱暴に脱いで、どうするか考えて、持っていた鞄に突っ込んだ。

ふと放った言葉が単刀直入過ぎるかと軋識が後ろを見れば、舞織が口を尖らせていた。



「先にご飯食べませんかー?」

「いらん」

「わたし作りますよー」

「じゃあ後で作れ」



お邪魔します と小さく呟いてから、勝手知ったる何とやら、腕を、グイグイ と引いて階段を上っていく。

情けなくも急く自分とは対照的な、のんびり間延びした声 ―えー、だとか、あー、だとか、うー、だとか― が後ろから流れてくる。



「外食後はホテル泊まりって決まってますから急がなくても平気ですよー、のんびりしましょうよう」

「ああ、じゃあ今晩は寝かさないっちゃ」

「それはのんびりって言わないですー。わたし、後で宿題も教えてほしいんですけど」

「また明日な」

「お風呂はー?軋識さんの手、凄く冷たいですよ。先に入りましょう。一緒にでいいですからー」

「じゃあ、とりあえず一回してから」



今晩はエロスマンですね、軋識先輩ったらー とブツブツぼやく舞織の言葉を、はいはい と流して、部屋へと入る。

ばたん とドアを閉めて、漸く息を吐いた。



「ねえ、軋識せん―」

「舞織」

「…はい」

「そんなの見せられて、我慢出来るか」

「え?」



くる と後ろを振り向いて、ドアのところに立ち尽くす舞織を抱き込んだ。



「先輩、冷たい」

「すぐ温まる」

「うぅ…買ったばっかなのにぃ…」

「残念だったな、潔く諦めろっちゃ」



真っ暗闇の部屋に、青白く見えるその柔肌に、ちゅ と唇を寄せる。


舞織の、小さな震える声に、ジワ と中心部が熱くなっていくのを感じながら、軋識は、まだまだ若いな と自嘲した。




あんまえろすにならなかったです、すいません。
なので本格的えろす(笑)に続いたらいいなー、とか。うん、頑張ります。



06.10.17