まだ日も暮れきらぬ橙色した眩しい夕焼けが、辺り一帯をオレンジ色へと染め上げる。

それは自分の部屋にも言える事で、閉めずに放っておいた窓から日が差し込んで部屋全体が暖色の色を帯びる。

そのオレンジは、床も壁も机も棚も、今腰かけているベッドも彼の背中も、そして恐らく自分自身も、オレンジ色に染めてしまっているだろう。



「…きししきさん」



小さく呼んだ声は、この静かな部屋には大きく聞こえて。

自分の腰にがっちりとした腕を巻きつけている男は、一体どんな顔して女子高生の繊細な腹に頭を押し付けているのか。


今は蜜柑よりも濃い色しているオレンジの髪、短くてパサパサしていて、触り心地はあまり良くない。


暇を持て余すかのように、そっと触れれば、ゆっくりと頭が動いた。



「どうしたんですか?」

「…疲れてるだけだ」

「じゃあ部屋で寝たらどうですか?」

「…お前が離れろと言うならそうする」



いつものキャラ設定はどうしちゃったんですかなんて流すような軽口は、本当に流されてしまって。

腰に回った腕の力が強さを増して、けれど閉じた膝とその男の体との距離が舞織を前のめりにさせる。



「あたたた、ちょ、ちょっと離して下さい、腰が…女の子の命の腰が…」

「まい…、り…」

「はい?」



体はあまり柔らかくない、この痛みに耐えるよりはスカートの中身を御開帳する方がマシだ。

そう思って、軋識の体をそこへ挟める程度に、閉じていた膝を開いた。


あー、どっちにせよ痛いな…


足の付け根がズキリと痛んだ。普段あまり開かない角度まで広げたせいだろうか。

運動不足による柔軟性の衰えに舞織は苦笑して、軋識の背中を叩いた。



「足、痛いんで体勢変えても良いですか?」

「…」

「そんな冷たい目で見ないで下さい、不可抗力ですよう。ほらほら、疲れてるんでしょう、こっちの方がきっと休まりますよ」



ムードもへったくれもない、そんな冷たい眼差しにわざとらしいほどさめざめと肩を下げ、それから腰に回っている腕を引いた。

引いたところでぴくりとも動かないのだから、どっちにせよ軋識が動く気になってくれないとどうしようもないのだが。


どうやら渋々といった感じではあるが、了解はしたらしい。

軋識の腕を引きながら、その腕に全体重を預け、自分の体をそのまま後ろへ倒す。なに、怖がることは特にない、ただベッドに倒れ込んだだけである。

柔らかなベッドの感触にまどろみを覚えていると、すぐに覆い被さるように軋識が舞織の上へと圧し掛かってきた。



「…ちょっと重いですが…まあ妥協しましょう」

「……」



小さな少女を下に、潰すようにしてベッドに倒れ込んでいる男、そんな図の出来上がりだった。


さて…落ち着いたところで、一体どうしたというのだろうか。

言葉も少なく反応も少なく、冷たくも暖かくもなく、突き放すでもなく、甘えていると言えばそうかもしれないが、ううん。


どうしたものかと舞織は、今度は女子高生の神聖な胸に頭を置いた軋識の、頬を擽る髪を引っ張った。



「何か悲しい事でもありましたか?」

「…ない、っちゃ」

「…おや、口調が戻ってきたんですね。やっぱり女子高生の乳は最強ですね」

「生だったら無敵っちゃ」

「そう言う元気があればもう心配いりませんよ」



口調がいつも通りになったことに安どしたのも束の間、不埒な右手が太腿を這い上がってきた。

ぎゅうとその手の甲を摘まめば、痛い、と小さな非難の声、空気に流されるからですよと窘めれば、むくりと急に顔が上がる。

驚きに目を丸くする舞織、じいと見つめられて、何となくの居心地の悪さに視線を彷徨わせる。



「別に流されたって良いっちゃ」

「よくないですよ、なあなあで子供でもできたら大変ですから」

「愛があっても?」

「あってもなくても。でも好きだから言ってるんですよ」

「…分かった」



何だかまるで大きな子供だなと舞織は小さく笑って、すらりと顔立ち整った頬を撫でる。

猫がされるように目を細め、それから軋識は体を起こした。


ふと、急に冷えていくような体。あとを追うように体を起こすと、額に口付けられた。



「仕事、行ってくるっちゃ」

「…今日、仕事だったんですか?」

「……舞織、」

「…っう、わぷっ」



もう、今日はいったい何なんだろう。

またもベッドの中へと逆戻りして、戻ってきた温もりに、痺れが戻ってきた体に、たくさん降ってくる口付けに。


ああもう面倒くさいと目を閉じた。

大禍時