間があって、それからハッ として首を振る。



「い、いらない…」

「そう照れるなっちゃ」

「照れてな…っきゃー!脱がさないでー!お兄ちゃーん、人識くーん!」



「…助けに行っちゃ」

「ダメ」

「…うぅ、ごめんね、伊織ちゃん…」

約束

パンッ!



乾いた音が部屋に響いた。



「っ痛…」

「…あ……」



舞織はその事に一瞬たじろいでから、それでも目つきを鋭くした。



「っき、軋識さんが悪いんですからね!」

「…」

「嫌だって言ってるのに、無理矢理脱がせてきて…っ」

「……」

「どうしてそう勝手なんですか!わたしの気持ちなんてまるで考えてくれない」

「…舞織」

「どうせっ、俺がプレゼントだなんて言っておいて、ただえっちしたいだけなんでしょう!!」

「舞織」

「何ですか!」



じんじん と手が痺れるように痛い。

右の頬が赤くなっている彼の方が痛いだろうに、何だか涙が出そうだった。


当の軋識は、赤くなった右頬の事など忘れてしまったかのように、舞織の事を見つめていた。



「恋は盲目なんだっちゃ」

「…………………………………………………………………………………………こ…?」



思わず現状を忘れて、舞織は思い切り眉を顰めた。

そんな、舞織の事などお構いなしに、軋識は真剣な眼差しで言葉を続ける。



「今の俺にはその言葉がピッタリ当て嵌まるっちゃ」

「……ちょ、ちょっと待って下さい、ね…」



ぐらり と倒れるかと思った。

舞織は覚束無い足で、机へと歩き、そこから国語辞書を取り出して、ぱらぱら とページを捲くった。



恋(こい)は盲目(もうもく)


《Love is blind》恋におちると、理性や常識を失ってしまうということ。


参照:大辞林



「………で、つまりは何が言いたいんですか?」

「うん?ああ、お前の事も大事だけど、そんなお前への配慮が回らないほど好きなんだっちゃ」

「…」

「お前を見てると、頭の中が真っ白になる」



じり と距離が縮まっていく。

軋識は机に寄り掛かっている舞織へと、一歩ずつ距離を近づけていく。


一方の舞織は、逃げようにも後ろが机で、どうしたら良いものかと思考をフル回転していた。


今捕まるのは果てしなくヤバイ気がする。



「抱き締めて、口付けて、そのまま窒息死させて、俺の傍に置いて置けたらと思う事だってあるっちゃ」



ほら、現に目が血走って、今にも窒息死させられそうだ。

ていうか目で殺される…!



「わ、分かりました…っ、分かりましたから!もう近づかないで!」

「優しくしてやれなくてごめん」

「分かりましたからー!もう許します、だからその目はダメですって!今にも人を殺めそうな目つきですよ!!」

「殺人鬼だから構わないっちゃ」

「あ、そうか…って違………う…」



遂に二人の距離は零になる。


軋識が舞織に手を伸ばせば、舞織は拒むように目を閉じた。



やめて…



「舞織…」



ぎゅうう と、キツクキツク、抱き締められる。

心臓を握り潰すかのように、キツクキツク…



ヤメテ…



「舞織…」



ふ と耳に吐息が掛かって膝が、ガクリ と折れる。

すかさず腰に回った軋識の手に支えられ、舞織は思わず軋識に縋った。



止めて…



「舞織」



ほら…



「お前が欲しい…」



窒息死 させられる。