もう体で覚えさせるしかない、と思ったのは良いけれど

教えてティーチャー

「軋識さぁん…」



そんな頼りない声が聞こえて、そちらに目をやる。

見れば、舞織が ―正確には目隠しをした、だ― 椅子に腰掛けたまま、片手を宙に彷徨わせていた。


何かを探るように、探すように、掴むように。



「わたし、暗いの苦手なんですけど…」

「だからこうして傍にいてやってるっちゃ」

「そうじゃなくっ……えっ、ちょ……なに?」



その手を握り、舞織を一度立たせる。

自分がその椅子に座り、舞織の手を引いて自分の上に座らせた。



「…軋識さん?」

「ほら、手ェ出せっちゃ」

「……はぁい」



舞織は諦めたのか、両手を机の上に置いた。

床を少し蹴って椅子を、くるり と半回転。


パソコンに向かい、引き出し式のキーボードを出して、舞織の手をその上へと乗せた。



「こことここに、人差し指を乗せて…そう、右人差し指がJ、左人差し指がFだっちゃ」

「…それは分かりましたけど…他の位置が分からないのにどうするんですか?」

「体で無理矢理覚えさせるっちゃ」



こうしている間にも時間はじりじりとタイムリミットへと近づいていく。


時計を見て、もう九時を回った事に軋識は眉を顰めた。


二日後と言ってもその二日目に補習があるのだ。

そうそう余裕かましていられない。


と、舞織が黙ったままだという事に首を傾げ、どうした と一声掛けた。



「…えっちな事しないで下さいね」

「……」

「ちょ、何で黙るんですか!?」

「はぁ、馬鹿な事を言うからだっちゃ。…それとも何か、期待でもしてたっちゃか」

「ち、違う!」



目隠しされているから瞳がどのように染まっているかは分からないものの、頬がみるみる紅潮していく様を見て、期待してたのか と苦笑う。



「それより、ほら、順番に言うから覚えろっちゃ」

「……はーい」

「良いか、左手中指から、D、S、A…それで、右手中指からK、L、小指は暫く使わないから良いっちゃ」

「うー……見えないと分からないですー」

「はい、F、D、S、A…暫く繰り返し押してろっちゃ」

「押しづらいー」

「グダグダ言ってると今晩本当に寝かせないぞ!」

「…!えっち!!」

「……だから、どうしてそっちへ持っていくんだっちゃ!そんな事ばかり考えてるから!」

「誰がそんな事ばかりですか!軋識さんが目隠しプレイなんてするからでしょう!」



ぎゃあぎゃあ と騒がしい声が、壁を通して聞こえてくる。


人識は、その喧嘩する声に眉を顰めつつ疲労し切った自身の体に、ごめん と小さく詫びて布団を被った。





零日目

タイピング練習...喧嘩に発展し、クリアならず。