ピ――――――――――――――――――――――――――――――――――――……‥‥ 教えてティーチャー 夕暮れ皆が帰る道。人識は歩いていた。 いつもの事だが、今回も長旅だった。 日本の天辺目指して途中面倒になって帰ってきたのは良いが、空腹で今にも倒れてしまいそうだった。 「あー…………うん?」 ふ と前方に、見た事のあるヤツがいた。 緑のセーラーに、ニット帽。 理解できない柄の靴下を履いて、スカートを北風にはためかせている。 「アレってもしかしなくても…」 ぎゅるるる と鳴る腹虫はとりあえず置いておいて。 肩にかけたカバンを背負い直して、その後姿に、そろりそろり と忍び寄った。 「うぃっす!」 バシッ 「!!……あ、……ぅ…」 「!な、?…っえ…!?」 バッチン と音はしなかったものの、少々強く叩き過ぎただろうか。 振り返ったソイツは、とりあえず間違いなく舞織だった。 驚かせようと、背後に忍び寄って背中を叩いてみたのだけれど、振り返った舞織は眉を下げて瞳を潤ませており、逆に虚を衝かれてしまう。 「ひ、人識く……ふ、ぇ…っ」 遂に、ほろほろ と頬を涙が伝い出す。 そして人識も慌て出す。 「ちょ、泣くなよ!悪かった!俺が、悪かった…のか?強く叩き過ぎたか?痛かったのか?ああもう、ごめんな」 「うぅ…ふ、え…っく」 「泣くなってー!…ぁん?何持ってんだお前。ぐしゃぐしゃになってんぞ」 大粒の涙を零す舞織の手には白い紙が一枚、握られていた。 その手を解いて、よれた紙に書かれた言葉を何とか読み取る。 「……通知表じゃねぇか、今日が終業式だったのか…何だよ、良くなかったのか?お前が?珍しいな」 「うああぁぁあん」 「っとにかく泣き止め!良いから泣き止め!こんな公衆の面前で…まるで俺が泣かしたみたいじゃねぇかよ!」 「うぇっ、人識くぅ、んっ、ふえぇえ…ん」 「あーあー、悪い悪い怒鳴って悪かった俺が全て悪かった何もかも悪かった。だから泣くなよ。こんなトコ大将に見つかったら俺どうなっ……」 ゾッ と鳥肌が立った。 分かりやすいように、気付きやすいように、ていうか気付かせる気満々で、怒気を放っているヤツが、何て言うか…俺の真後ろにいる。 や…ね。 もうこの時点で誰だかなんて言わなくても分かる。 分かるが、あーもー、ナイスタイミング☆ じゃねえよ。 これはもう舞織にちゃんと説明して俺が原因じゃない事を弁明してもらわ… 「軋識さぁああんっ!!」 俺に縋りついていたのが遥か昔のように思えてきた。 舞織は人識から離れ、人識の後ろにいた軋識へと抱き付いた。 「…舞織…何された、っちゃ」 「うっ、えぐ…ひ、んっ!、軋識さぁあんっ」 「…そうか、言えないような事を…」 「ま、待て!何でそうなるんだよ!!昔のクールビズな大将に戻ってくれよ!!」 「……ク?」 「いや、それはいい、いいが、俺は悪くねぇんだって!オイ!舞織!テメふざけんじゃねぇぞ!」 ゴゴゴゴゴゴゴゴゴ………ッッ!!! 圧力が音を出していたらきっとこんなカンジ。 軋識に、ギュウ とくっついて離れない舞織からゆっくりと目を離せば、言葉では言い表せない怒りの表情をした大将がいた。 「あれぇ?どうしたの君達」 間の抜けた、素っ頓狂な声、とまでは言わないけれど。 近所のスーパーのロゴが入ったビニール袋を持った双識が、にこにこ とこちらに歩み寄ってくる。 「…兄貴」 「レン…」 「皆して私をお出迎えかな?それにしたってここは目立つから中に入ろうね。ね、伊織ちゃんも」 「…うん、…」 「涙の訳はちゃんと家で聞くからね」 「うん…っ」 ただ焦る人識や、抱き締める軋識とは違い、双識は言葉であやす。 舞織は涙を瞳に溜めたまま、ゆっくりと無理矢理笑んでみせた。 |