そして三日目の夕方、俺は痛みに呻いて目を覚ました。

嗚呼…

まず最初に思ったのは異常な喉の渇きだった。

切り傷による発熱で、汗をかいて体内の大量の水分を失ったのだろう。



「……―――つぅ…ッッ!!」



右腕を襲う激痛は耐えられないほどではないが、体を起こすのに随分と時間を要してしまう。

極まって不便だ と舌打ちすると、ガチャ とドアが開いた。



「…舞織」

「………ぁ……あ…」



桶に水を張ったソレを持った舞織は、軋識を見て、驚愕に目を見開いた。

そしてみるみるその瞳は、歪む、潤む。


ボロボロ と零れ落ちたソレは、透明でとても綺麗だった。



「まいお…―――」



バシャンッ


カランカランカラン…――



「うええぇ―…ん」



声を掛けようとした。

けれど、その前に、舞織はその場で泣き崩れてしまった。


足にかかった水には氷が入っていて、冷たかったろうな… などとぼんやり思った。



「…ッ、泣くなっちゃ…」



悲鳴を上げる体を無視して、ベッドから降りた。

ドアの前で泣き出した舞織の傍まで何とか歩く。



「ッきししきさっ…よ、良かったっ!起きなかったら、どうしようって…ッわたしっ、ごめんなさ…っ!」



どうしたものかと突っ立っていたら、舞織が抱き付いてきた。

それでまた傷口が開いたのだが、今はどうでも良くて。



泣き止むまで背中を叩いてやった。













































「もう決めたんです」



それから数十分後、漸く泣き止んだ舞織の第一声は、軋識を叱るものであった。



『何で歩いてるんですか!傷口開いちゃいます!ほらほら、寝て下さい!!』



誰がそうさせたんだと呆れ半分、いつも通りの元気を取り戻した事に安堵して、大人しくベッドに潜った。


そして舞織はもう一度言った。



「軋識さんの怪我が治るまでの間、身の回りのお世話は全部私がやります!もう決めたんです」



ナイチンゲール舞織と呼んで下さい! と微笑んだ舞織に、感謝の意を込めて、唇を合わせた。



「上から下まで頼むっちゃ」

「大船に乗ったつもりでいてくださいね」



照れたように笑う舞織は、全てを包みこむようなナイチンゲールの笑みをしてみせた。