ふぅ と一つ溜息が零れた。 双識は物憂げに手の内の鋏を弄んで、小さく口を開いた。 「…伊織ちゃん、」 ガシャン 双識は指折り返し、小指を立てて、また一つ、溜息を吐いた。 ああ、これで六枚目。 Once again 軋識が新聞片手にリビングへやってきた。遅起きの軋識が珍しいな、と双識は目を細める。 まぁ…原因は明々白々、なのだけれど。 軋識は音のしたキッチンを見遣って、またか という顔をした。 「何やってるんだっちゃ、人識」 「……皿割った」 「遅いねぇ…」 「…何がだっちゃ、レン」 「伊織ちゃんに決まってるだろう」 パリン 折った薬指を立てる。 ああ、今ので七枚目… 「寂しいのは分かるけどお皿割り過ぎだよ、人識」 「会いたいのは分かるが割り過ぎだっちゃ、人識」 「………――――ッ」 七枚。 この数字は人識が、一日とそこらで割った皿の合計枚数だった。 舞織に関連するキーワードが出ると、人識はこうやって面白いほどに動揺してみせた。 面白いは面白いが、タイミングが良いのか悪いのか、いつも皿を持っている時に発せられているため、皿が七枚も使用不可になってしまった。 そんな人識は、わなわなと拳を震わせて、キッチンから足音荒く軋識に食ってかかる。 「ぜってーワザとだろ!!あんたらもいい加減タチ悪ィな、ああ!?」 しゃきん 「やだなぁ、人識、何をそんなに怒ってるの?伊織ちゃんがいなくてそんなに寂しい?」 自殺志願は今日もキレの良い音を出す。 双識は刃先を、ソッ と撫でながら、人識の方へと目を向ける。 「――――ッッ」 瞬間、頬を朱に染める人識に、双識は、にっこり と微笑んだ。 「ちなみに私はとても寂しいよ、死んでしまいそうだ」 「死ね!」 「酷いなぁ」 やれやれ と肩を竦めると、胸倉を掴まれたままだった軋識が、次は俺の番だと言わんばかりに口を開く。 「ハンッ、刺青だピアスだ放浪だとしたところで、人識も所詮はただのガキだっちゃ」 「黙れよ、ロリコン田舎モンが…」 「……人識…口の聞き方には気を付けろっちゃ…」 「やだやだ、二人して。朝から家中血みどろにする気?」 そう言って双識は、人識がやり掛けた皿の片付けをとキッチンへ向かう。 「兄貴、俺がやるからすんな」 「もう割られたら堪んないよ、皿に触るの禁止ね」 「…」 「アス、」 玄関から箒を… と言おうとした時だった。 ピーンポーン――…… と間の抜けた音が家中に響き渡ったのは。 |