いつものお昼。


天気が良いね と笑うので舞織を屋上に連れてきた。

びゅうびゅう と風が強いから と寄り添えれば、甘くはにかんで笑って魅せた。



ああ、どうしてそんなにも…

トリトマ

「ご馳走様」

「ふふ、お粗末様です」



ぱん と手を合わせて、それから弁当に蓋をする。

隣に座る舞織は当の昔に食べ終えて、空を見上げていた。


いつからだろう…舞織が弁当を作ってきてくれるようになったのは…



「……舞織…」

「何ですか?」



予想外に甘えたれた自分の声に、舞織は小さく笑みを零して応とした。



「チューしたい」

「……だーめ」

「何で」

「今チューするとカレーパンの味がしちゃうから」

「良いよ、別に」

「わたしがヤなんです」



だから、帰ってからね と優しくお願いされて、人識は、ちぇ と口を尖らせた。


いつからだろう…舞織がこんな甘い顔をしてくれるようになったのは…



「…あ…」

「ん?」



ふ と舞織が声を上げて、人識がそちらを見遣る。

舞織が、ドアを指差して、苦笑いをする。



「呼んでる」

「何が?」

「女の子達が」

「誰を」

「人識くんを、ですよ」



そう言われ、耳を澄ませば、確かに女子の声。


人識くーん? とか、折角お弁当作ってきたのになー とか、一緒にご飯食べようよう とか。


ああ、A組のあの子だね とか、B組の子は可愛いよね と舞織が指折り思い出していく。



「…行かないの?」

「ンで…」

「だって…」

「舞織」



だって、わたし達は、内緒の関係だよ

そう言われたくなくて、声を荒げて遮った。



「何で、バラしちゃダメなんだよ」

「わたしのお友達にも、人識くんを好きな子がいて」

「友達の方が大事か?」

「どっちも大事ですよ」

「…」

「憧れの先輩も、可愛い後輩も、みんなみんな人識くんが大好きなんです」



よいしょっと と言って舞織が立ち上がる。


こういう時に限って、風は吹かない…チッ



「それって、凄く、嬉しい……寂しいけど…嬉しいんです」

「意味、分かんねえ」

「大好きな人を大好きと言ってもらえるのは、その人の良さが他の人にも分かるって事だから」

「だから俺を独り占めするのはよくないってか?」

「身も蓋もないなぁ」

「事実だろ」

「うふふ」



じゃあ と舞織が二つ分の弁当を手にして手を振る。



「戻りますね」

「もう少しいろよ」

「時計を見て下さい人識くん。もうすぐ女の子達がここに来る時間です」

「舞織」

「何ですか?」



ドアに手を掛けるその手の上に、自身のソレを重ねて、開き掛けたドアを閉じた。


顔を逸らす舞織の頬をこちらに向けて、ちゅ と触れる。



「……カレーパンの味、しましたか?」

「しねぇよ、べろちゅーじゃねぇもん」

「そっか」

「しても良いの?」

「だーめ」

「あっそ」



じゃあ、今度こそ と舞織がドアノブを回した。



「なぁ、舞織」

「ん?」

「いつか、あんたは、俺を独占したいと思う日が、くるのか?」

「………そんな日…こなくていい」

「舞織…」

「でも…逆は時既に遅し、ですかね」

「え?」



ふふ と笑って舞織は自分を指差した。



「わたしは、あなたのものだから」

「っまい、」

「大好きです、人識くん」



ばたん とドアが閉じた。



「っあー……チクショウ、可愛いなぁ、もう」



でも…


いつからだろう…舞織が涙を見せなくなったのは…