頬に、額に…それから、閉じろよ と言われたすぐその後に瞼に、次から次へと口付けが降ってくる。



そうして、ドキドキしてしまう


キラキラと輝くほど優しい笑顔をみせる貴方に

泣きそうになるほど 嬉しさと愛しさが 込み上げる

キラキラキラ

言葉を失った舞織を担いでベッドまで運んでも、履いていたスカートを下着ごと、ずるり と下ろしても、抵抗も拒否も否定も落ちてこない。

襲い甲斐がないというか、燃えないというか……


人識は、とりあえず舞織を見遣った。



「抵抗しないのか?」

「……して欲しいんですか?」

「んんー、まぁ、どっちかっつたら」

「変態」

「はいはい、ありがとう、んじゃ、ばんざーい」

「ゎ ぷっ」



まぁ、そのうち嫌でも熱を帯びる体だし…いいか と人識は舞織の上に着ているものを脱がせながら思った。

舞織をそうなるように躾けたし ―躾って…ヒワイだよなぁ…― 舞織を見ていれば自分の体は勝手に疼いてしまうのだった。





事は、じりじり と進み、現在、舞織の身を包むものはベッドから引き寄せた毛布だけとなっていた。


じりじり と焦がれるのは、その胸も同じで、手を退かされて、ソコを冷たい手が這えば、舞織は小さく熱い息を吐いた。



「そういや、やるの…久しぶりだな」

「…忙しかった で すから…ね」

「お前が だろ。俺は毎日誘ったのに」

「例え暇でも 毎日なんてしませ …んっ」

「でも、しないとさ…こういう風に、すぐ感じちゃう女の子になっちゃうんだぜ?」

「ッ、誰のせ… …ぁ、あ…!」



言葉を全て言わせまい と人識は、じわじわ と濡れそぼるソコへも、手を這わせる。

くちゅ と小さく水の音がして、舞織は思わず目を閉じた。



「俺のお陰、だよなぁ、かはっ」

「お陰じゃ なぁ…っん、あっ!人識く…!」



ひどい と舞織は目で睨む。

ソレに対して、人識はゆっくりと目を細め、それから肩を竦ませた。



「舞織ー」

「っわ、あ」



そうして次の瞬間には、甘えたれた声で名前を呼ばれ、ぐらり と押し倒されてしまう。



「俺さー、お前の事…嫌いじゃないぜ」

「…唐突に何ですか?しかもあんまり嬉しくないんですけど」

「あー?光栄な事だろうが、万歳三唱して喜んでも物足りないぐらいだぜ」

「…」

「お前は?」



じゃあ、人識くんに好きと言われたら、どうなってしまうんだろう…

……嬉しくて死んじゃったり…愛あまって殺されたりするのかな… と、そんな考えが過ぎった。

お陰で、人識の言葉をうまく聞き取れず、舞織は首を傾げた。



「何ですか?」

「好き?俺の事」



言葉は短いけれど、顔は真剣だった。……真剣と書いてマジと読む。

そんな事、聞かなくたって分かるだろうに、言わなくたって知ってるだろうに。


舞織は、そんな事を不安要素にする人識に、にへ と口元を緩めた。



「…わたしは好きですよー、ぶっちゃけ大好きです」

「マジでか?」

「好きじゃない人とこんな事する時間なんて、わたしにはありませんから」

「そう」

「です」



その答えに満足したのか、人識は、そっかそっかー そうなのか そうだったのか と一人、頷いた。



「ひとし…」

「じゃ、続き開始なー」

「え、ちょ」

「ぶっちゃけると、俺もう限界なんだわ」

「え?…え?!…や、ちょ、待っ…」

「待てません。あ でもな、これは俺が早濡なんじゃないからな、そこ、勘違いするなよ」

「……」

「返事」

「はい……ってっ、待っ……!!!」



ソッと髪を撫でられたのもたった一瞬。

熱いソレが、ひたり と触れて、舞織は顔を引き攣らせた。



「や、…いや…っ待…っ…人識く……っああぁっ…!!」

「ッ、そんな弄ってないのに、凄いな、お前は……そのうち俺の顔見ただけでイケるようになるんじゃねぇ?」

「ッバカ!…あ あ…っ、や、まって、動かな で…っ」

「だから言ってんだろ、限界だって」

「ッ!!ああぁああ…っっ!!」



ぐちゅ っぢゅ と卑猥な水音が、喘ぎに混じって耳へと響く。


嫌がっても待ってくれず、請うてもゆっくりにはしてくれない。

速まる律動と、ナカで質量を増すソレに、舞織は涙を零す。



「泣くな…って」

「っうぁ だっ…てぇ…っ、っあ ぁあ…っ」

「俺が限界なの…お前のせいなんだぞ」

「っえ…?」

「なのに、ンな顔されたら、優しく、できねぇって…っ」

「そん な…っ、うあ ああぁっ、っひ、あっ も、やぁあ…っ」



何も考えられなくなっていく。

何も見えなくなっていく。

何も聞こえなくなって、何も分からなくなってしまうのなら、その前に…と、舞織は閉じた瞳を開けた。


涙で歪んだ視界には苦しそうな人識くんがいて

大きな満月を背負った彼の、頬を伝うその汗が月明かりを帯びて、キラキラと、とても綺麗で


それが、ぽたり と胸へ落ちて、濡れていく。



「や、っ も…っ」



人識くん… と助けを求めるように手を伸ばした。

その手は、そのまま人識の頬へと寄せられて、そのキラキラが、舞織の手にも移っていく。



「ッ―――…!!!」



どくん と脈打って、人識は、そのまま舞織の上へと倒れ込んだ。


ぐえ と呻く舞織を無視して。


* * *


ぱち と目が覚めた。

それは月明かりのせいか、何か予感がしたからか…

とにかく人識は目を覚ました。



「……」



ぼんやりしたまま、舞織は… と目を動かすと、探し人はベッドの端に腰掛けて、人識の知らない歌を口ずさんでいた。

何も纏わないその白い素肌は、月によって透き通るかのような青白さを帯びていて、何となく人識を不安にさせた。


舞織は、ふと、してあったソレを外して手に取って、月に翳してみせる。



「ほら、見て下さいよ。人識くんがわたしに物をくれたんですよ」



明日はナイフでも降ってきますか? と舞織は月に話し掛ける。


落ちてきたら全部拾おう と人識が場違いな事を考えていると



「どうしよう…」



と、舞織が震えた声を放った。



「凄く…キレイ……」



舞織の瞳は、零れ落ちそうなほど潤んでいて、ソレと月によって、舞織の瞳はどの宝石にも叶わない輝きを放っているように見えた。


そうして舞織はソレを掌に収めて、そのトップにゆっくりと唇を寄せた。


キラキラ と眩しい月が、頬を伝う涙と唇を寄せたソレを光らせる。

何とも、眠気の覚める、神聖な儀式のようだった…





暫くソレを見つめていて、人識はハタと我に返った。


悪い事を考えるのがお得意だなんて、履歴書には絶対書けないが、ソレを思いつく事に関しては長けていると自負していた。

そうして今も、頭を過ぎったソレを行動に移すべく…



「…舞織…?」



今、起きた にしては、声色がハッキリし過ぎてる。

どうやらソレに対する反応を楽しみにし過ぎているらしい。


浮かれ立ったその声に早くもバレたかと思っていると、当の舞織はわたわたとしていた。


どうやら、驚きが勝っているらしく、人識のベタベタな演技も見抜けないでいるらしい。



「ひひひひ人識くん、今起きたんですか!?」

「んー……」

「?何ですか」



眠そうな雰囲気を装って、手招いて、舞織を抱き寄せる。

もうへまはしない、やるからには一流男優なんてメじゃないぐらいのモノを…



「俺がやったヤツは?」



今気付いた と言わんばかりに、首元をトンと叩く。

先程までしていたはずのアレは? と聞きたげに。



「…っあ…!う…ちょ、ちょっと汗で錆びてないかなって…見ようと思って外してて…」

「貸して」



慌てふためく舞織をよそに、手の内から半ば強引にソレを奪う。


そうして、舞織が見つめるその瞳を見つめたまま、舞織と同じように、ソレに口付けてみせた。



「………………………………………………………………」

「間接キスだな」



呆けたまま止まってしまった舞織の時を動かすべく、舌を、ぺろり と出して悪戯に笑ってみせる。

舞織はすぐにこちらへと帰ってきた。



「え、?………あ!…っあ――――ッッ!!!!」

「うん?」

「酷い!見てたんでしょう!!」

「かははっ、油断禁物だぜー?」

「きいいぃ」

「まー、泣くほど喜んでくれるなんて買った甲斐があるってもんだな」

「あーあーあー、聞ーこーえーなーいー!!」

「舞織」

「やーいやー、何も言わないでー」



頬を染めて、悔しそうに、それから耳を塞いで首を振って。


イヤイヤ とする幼い仕草には、一流男優だって形無しだ と人識は堪え切れずに吹き出した。



「ぶふっ あー、もう、分かった分かった、言わねぇから手ェ外せ」



な、と言って、強引に手を引き剥がす。


が、依然として舞織はご立腹、頬を膨らませ口を尖らせて、顔を逸らして、すっかりご機嫌を損ねてしまった。



「舞織」

「…」

「舞織ってば」

「…何ですか」

「なー、舞織ー」

「っだから何って…」



もう! と漸くその赤い顔がこちらを向いた。

そうして自身の元へと抱き込んで、その赤い唇に触れる。



「アイシテルぜ」

「いーやー!!」

「かはははっ」




舞織誕生日企画のお話、その壱

愛だけ十二分に、お誕生日おめでとう。