雨の日は ロクな事が  ない

doll

「…はぁ …はぁ…っ、はぁ」



ザアアアアアァァァァァァァ――――――――――――…ッッ

ひたすらに、ただひたすらに雨が降るその道で、人識は走る事を停止した。


日頃の運動不足が祟ったな

…いや、煙草のせい、か ?



「…疲れた…」



ゼェゼェ と息苦しい胸を押さえながら、人識は雨が降り頻る夜の道を歩いた。

いつも通る道とはいえ、こんな豪雨では目先の視界も奪われてしまって、こちらで合っているかどうかさえも分からない。



「…ああ、もういいや」



これだけ濡れちゃ、もう走る意味がない

雨は好きじゃない、が嫌いでもないし…


ザァザァ と降る雨に、髪の先からは止め処なく雫が滴り落ちる。

着ていたパーカーは水を吸って重たい上に、人識の体温を奪っていく。



「っ、へ っくしっ」



やっぱり嫌いかもしれない

ぶるり と体を震わせてそう思う。



「ぁん?何だ、ありゃ」



真っ暗な道の奥に、ぽつり と一つの光。

小走りに駆け寄って ―途中、バシャリ と大きな水溜りを踏んだ― 人識は貼り付いた前髪を払い除けた。



「…あ、ああ、…ゴミ捨て場じゃねぇか」



地域のゴミ捨て場。

先程見えた明かりの点は、どうやらこのゴミ捨て場に設置された外灯らしかった。


それはともかくとして。



「良かった…道はこっちで合ってたみたいだな」



このゴミ捨て場、人識の住む地域のものではないが、たまに使用させてもらっているところ。


あと二十分ばかしだな

そう考えながらも、目は、そちらへいってしまう。


どうして だろうか


いや、目がそちらへ行く理由は出ない

どうしてここに、こんなところに、コレがいるんだろうか だ。



「…兄貴の陰湿で姑息で卑怯なイジメかな?」



ザアアアアアァァァァァァァ――――――――――――…ッッ



「なァ?」



一歩、また一歩と、人識はソレに近づいていく。

途中、ぱしゃん とまた水溜りを踏むが、もう浸透し切ったソレだ、特に構わない。



「お前、…捨てられたのか?」



ザアアアアアァァァァァァァ――――――――――――…ッッ



人識はしゃがみこんで、ソレに触れた。



「柔らけぇな…」



ザアアアアアァァァァァァァ――――――――――――…ッッ



「…お前が…生ける人形 なんだろ?」



ザアアアアアァァァァァァァ――――――――――――…ッッ



少女は喋らない

喋れないのかもしれないし、喋ってはいけないのかもしれない


ただ目を閉じて、まるで眠るように、死にゆくように、目を閉じていた。



「俺は、お前らが、大嫌いなんだ」



ザアアアアアァァァァァァァ――――――――――――…ッッ



「……でも、お前の顔は、嫌いじゃないぜ」



チリン



尻尾が鳴ったのは、応答えたつもりなのか、人識が担いだからなのか…



雨は一層の激しさを増して、二人へと容赦なく打ち付けた。