「よぉ、人識」

「……」



画面に映ったのは、一番出ないだろうと予想していた人識だった。

元より異質な人物だったが、今回は一体何の気紛れなのか…


いや、そんな事よりも



「何だっちゃ!その嫌そうな顔は!」

×××

「……だって…なぁ…」

「だって何だっちゃ」

「ん、イヤ、まぁいいや。話は中でしようぜ。今開けさせっから」

「ああ」



プツン と画面から映像が消えた。


抱いたままだった舞織を地に下ろすと、舞織は不安定に足をよたつかせながら、軋識にしがみついた。



「もう少ししたら座れるから、あとちょっと我慢しとけっちゃ」

「はーい」



微笑む舞織の髪をぐしゃぐしゃと撫でていると、門の向こうから、とたとたと走ってくる音がした。



「お待たせしましたーっ」

「!!!?」



ぱたくたと息を切らして走ってきたのは、隣、腰にしがみついている舞織よりも幼く見える少女だった。

大きな黄色いリボンが、頭左右に二つ付いているのが特徴的で、軋識は思わず頬を引き攣つらせた。


誰だ、こいつは!



「今鍵開けるですよー」

「……」

「んんー……アレ?これでもない……これでもない……」

「…おい…」

「はい?…あ、開きました!どうぞー」



小さな手の内、輪っかに通された数十個の鍵の一つが、鍵穴と一致したらしい。

ガシャッ と音がして、門が自動的に開けていく。


少女はその門に押されるようにして端へ退いた。



「お帰りなさいませ、ご主人様!」

「……ごしゅじんさま?」

「舞織、余計な言葉を覚えるんじゃないっちゃ」

「?」



少女は言葉よりも先に盛大に頭を下げた。

ふわふわ揺れるリボン。ひらひらとしたスカート。


…これってまさか…



この家は、自分がいない間にどうしてしまったんだろう… などと、そんな切ない思いが頭を過ぎる。



「ご主人様達がお待ちですです!」

「…はぁ…」

「案内しますー」



手放しそうになる意識をグッと握り締めて、軋識は左右対称の庭を、少女の後ろに付いて歩いた。

舞織は、右を見て左を見て、そしてまた右を見て左を見て、と飽きもせずに楽しそうに笑んでいた。



「…確か、ここの鍵は…」

「…おい…」

「おいじゃないです、姫ちゃんですよー」

「……何で…ここに…」

「雇われ姫ちゃんですよー」

「小学せ…」

「姫ちゃんは高校生ですよ!」



二番目のご主人様と同じ事をいう! と頬を膨らませて、姫ちゃんという少女は玄関の扉を開けた。



「ここをまっすぐ歩いて奥の部屋にお待ち兼ねです」

「分かった」

「お飲み物は何が宜しいですかー?」

「あ、じゃあ、コーヒーで…舞織も…コーヒーで良いか?」



流石にコーヒーぐらいは知ってるよな という含みで見遣れば、にこり と微笑まれた。

…知らないのか?



「その方は、ご主人様の彼女様ですか?」



と、姫ちゃんと名乗った少女が、興味津々といった表情で舞織を見ていた。



「…違うっちゃ」

「ですかー」



こんなに年が離れているのにそう見えるのか?

と思う疑問は飲み込んで、嫌な気はしないな という一種の気の迷いもごくりと飲み込んだ。



「姫ちゃんは紫木一姫といいます。宜しくお願いします」

「…」

「…?極秘権主張ですか?」

「…黙秘権って言いたいっちゃか?いや、それよりもお前…紫木といったな」

「ですよ」

「雇われてるのはお前だけっちゃか?」

「んんー、違うみたいです」

「みたい?」

「詳しい事は首突っ込まないのが雇われ姫ちゃんです!」

「……分かった。舞織、行くぞ」



こくん と頷いた舞織を引き連れて、奥の奥へと歩いていく。


突っ込まないと言いつつ、あいつさっき…

いや、ここで細かい事を気にするのは疲労を負うだけだ…


ふるふると頭を振って、軋識は、奥の部屋の扉に手をかけた。