「ッつ…あぁっ!」



抜いてはいけないと分かっていても、抜かずにはいられなかった。

ブシュウウウゥー… と吹き上げる赤。


勿体無いなあ… なんて思っていたら第二撃が迫ってきた。

Once again

「ッこれが、予感していたこと、ッなんですかねえっ!」



ひゅん と空気を切り裂いて迫ってきたその刃物を、火花を散らせて逆手で受け止める。

手の内にあるのはチャイナクロス トリプルローイングナイフ スモールという投げるタイプのナイフである。


ただでさえ力負けしているのに、そのような刃物で受けていられるはずもなく、力任せに押されて舞織はまた尻餅をついた。



「ッ…う、ぁっ!」



その衝撃はどっくどっくと血が止め処なく流れる右の太腿にもダメージを与えた。


座り込んだまま太腿に手を当てる舞織に対し、相手は腰の後ろに手を回し何かを握り締めた。



「女の零崎なんざ、俺ァ初めてだぜ」

「…だから何だと…?」

「女の零崎を殺したのも俺が初めてというわけだ」



語尾の方は轟いた雷に掻き消されたが、雷光によって垣間見えたその笑みは、にたり としていて



「気持ち悪いですよう」

「ッ死ね!!」

「……っっ!!」



手に握り締めたその金属バットが、ひゅ とフルスイングされる。

耳のすぐ傍で、ちり と掠める音がして、すぐ様、左目を閉じざるを得なくなる。


フルスイングの間に避けようと試みたものの避け切れずに額を掠ったらしく、その鮮血が、どくり と流れて左の視界を奪った。


にしたっても、刃物とバットのコンビは見た目が格好悪いなぁ… なんて思ったのだけれど。


問題はそこじゃあない。


そこじゃあ…ない ですよ。



「ソレは……愚神礼賛への冒涜…です ね」

「ァア?何言って……ッ!!?」



瞬間――


ゾクリ と背筋が凍るように、寒くなる。

金縛りに遭ったように、体が動かなくなる。

全身の水分を抜き取られたように、喉が渇く。

首を締められているかのように、息が出来ない。



「あれだけ大きい獲物を持っておいて」



ふら と舞織が右足を庇いながら立ち上がる。



「あれだけ大きく振り被っておいて」



ザッ、ジャリ… と一歩一歩、距離を詰める。

太腿がスカートを濡らし白い足を伝って、床に血の池を作っていく。



「たった、これだけ…?」

「ヒ、ィッ!!」



ゆっくりと顔が上がって、信じられない という舞織の表情が、またも雷光によって照らされた。

青白く照らされた顔の左半分が、塗りたくられたような赤で染まっていた。


青白い光によってそれは黒く見えたのだけれど…



「軋識さんなら、一発で仕留めます」



じゃり…っ



「…ッぁ、あ あ…っ」



ぽた ぽた…っ



「鈍器は確かに破壊力抜群だけれど、使いこなせないのなら使わない方が良い」

「ま…っ待ってくれ!俺はここの連中に雇われただけで」



じゃり、ザッ



「お兄ちゃんなんて鋏で人を殺めちゃうんですよ?」

「た、頼む!助けてくれ!!」



バシャン――



「家族への冒涜は、許さない」

「わ、悪かった…!謝るから…っ」

「それでは」

「…ッヒイイィ!!」

「零崎を」



ハ ジ メ マ ス



「ぎゃああぁあああ!!!!」