マイクの意味が無いほどに騒がしい。

愛のシルシ

『さァ!いよいよカウントダウン開始です!!』



アナウンサーが声を張り上げれば、真っ白な息が、暗闇にふわりと現れる。

叫ぶようにして秒読みを開始すれば、後ろで騒いでいたギャラリー達も、アナウンサーに続いてカウントを始めた。



「人識くーん、カウントダウンですよー」



舞織の膝の上、柔らかい太腿を堪能とばかりに頬をくっつけて、人識はまどろみの中にいた。


偶然に偶然が重なって、上の兄達は不在。きっと今夜は帰らない。

ならば、とここぞとばかりに舞織にべたりとくっついて離れないのがこの人識。


ウトウト としている人識の肩を揺すれば、ゆっくりと瞼が上がった。



「……なに?」

「カウントダウンです」

「………あー……ごー、よーん…」

「違いますよ、一分前です」

「…じゃあまだいい」



一分も前でカウント? と言いた気に眉を顰めて、それからまた人識は舞織の太腿に頬をくっつけて、目を閉じてしまう。



「…ねえ、人識くん。わたし、足痺れたんですけど…」



もう抓っても叩いても感覚がないほどに痺れている足は、微動だに動かす事すら許されない。

返事の代わりに寝息が返ってきたのに、舞織は諦めを覚えて、気を紛らわせようとテレビに目をやった。



「……じゅうご、じゅうよん じゅうさん じゅうに……」



アナウンサーが、シャンパンだかワインだかを手にとって、上下にガシガシと振っている。



「きゅう はーち なーな ろーく…人識くん、あと数秒で年明けますよ」

「…ん」







人識くんがぱちりと目を開けて、体を起こした。


ああ、足の痺れが戻ってくる…







テレビを見遣って、それから視線がこちらに向けられる


寝惚けているだけだろうに、真っ直ぐ見つめられては意味もなくドキドキとしてしまう







人識くんが、わたしの目の前にいて、テレビが見えなくなる


ワアァァ と騒ぐ声が、やけに耳に響いた







瞬間、ニヤリ と人識くんの口元が歪んだ、気がした


あとはもう、…シャットアウトだった