「っくし!」



ヒヤリ と冷たい風が体を凍てつかせ、人識は安眠妨害に眉を顰めた。

夢で会いましょう

「まーいー…」

「ひゃ!あ…お、おはようございます」



カーテンの隙間から差す光に目を細めつつ、隣で上半身起こしている舞織の腰に腕を回した。

体温が低いせいか、ただ単に驚かせただけなのか、舞織は体を、ビクリ と竦ませて、こちらを見た。



「何してんの?」

「…外が、」

「?外ォ…?」



じぃ と見つめる先は、カーテンによって隠された窓一つ。

何を気にしているのかは知らないが、自分と同じぐらいに舞織が冷えているのが回している腕から伝わってくる。



「良いから、早く布団入れ」

「…う ん」



余程気になるのか、視線は窓にそそいだままに、舞織は布団に潜り込んだ。



「……なァ、もっとちゃんと寝た方が良いぜ?寝始めてまだ二時間も経っちゃいないんだから」

「んー…」



視線はおろか、返事さえも上の空、意味を成さない生返事ばかりの舞織。


舞織の意識が自分以外のモノに奪われているのが気に食わない と人識は眉を顰める。

だが、顔に手を添えこちらを向かせて、口付けを求めても、やはり、その意識は窓に向いている。



「……はぁ、」

「あ!…の、ごめんなさい」



人識の溜息に、舞織は、ハッ として、そこで漸く人識と目を合わせた。



「ごめんなさい、…でも…だってね…!」



懸命に弁明する舞織が、可愛い などと現抜かす自分を心の中で叱咤する。

必死に謝る舞織の切な気な瞳を見ると、悪くないはずの自分が悪い気がしてくるから手に負えない。


甘いな と自分に呆れつつも、きっとソレは惚れた弱みなのだろう と諦める。



「分ぁった、分ぁった。窓、見に行こう」

「…え、でも…」

「今のままじゃ俺がカワイソウなの。折角のクリスマスにコイビトが冷たいなんてあんまりだぜ」

「うぅ…」



しゅん と項垂れる舞織の髪を撫でて、人識は、さて と体を起こした。

ソレに続いて舞織もわたわたと体を起こす。


一糸纏わぬ姿の二人。

人識が布団を、ズルズル と引いてベッドを降りれば、舞織も慌てて布団端を掴んで人識の後に続いた。



「…ああ、そーゆー…」



カーテンを少し開け、眩しさに目を細めつつ、人識はなるほどと頷いた。



「舞織、ほれ…」

「…!うあ!やっぱり…っ!!」



キラキラキラ

輝くは舞織の瞳と、外の銀世界。


夜の間に深深と積もったのだろうか、辺り一面が白銀へと姿を変えていた。



「人識くん!雪ですよ!雪!!うわあぁ…っ!!」

「そ、そうだな」

「あのですね、今日はいつもより少し寒いなって!それでもしかしたらって………?何ですか?」

「うん?何が?」

「や…何だか、わたしの事をじっと見てるから…わたしに何かついてますか?」

「ああ、うん、…いや、何でも…な…っ」



煮え切らない返事に首傾げる舞織を他所に、人識は込み上げる笑いを必死で抑えていた。


毎年降る雪に、こんなにも嬉しそうな顔するなんて、何だかガキだ とは、死んでも言えない。



「はぁー…っ…さァて、…ん?なに怒ってんだよ」

「べっつにーっ」



自分が笑われているのだと分かったのか、舞織は顔を赤らめ、ぷく と頬を膨らませた。



「何でもねぇって。それよりほら、もう一回、ヤんぞ」

「え、ちょ…っ!」



納まりかけた笑いがまた湧きあがる。

かはは と笑いながら、人識は舞織を布団で、ぐるり と包んで持ち上げた。



「寝るんじゃなかったんですか?」

「ん?そりゃ寝るさ」



ぽふ と布団に寝かせて覆い被されば、赤らんだ舞織の顔が明るい光によってよく見える。

頬、額、と口付けを落としていけば、舞織はくすぐったそうにして笑った。



「ただな…今日はクリスマスだし、俺もプレゼント貰っとかなきゃなーって、思っただけさ」

「え?昨日のは…?」

「昨日は昨日。今日は今日だろ」

「そんな!」

「夢で会おうぜ、ベイビ、なんつって!!」



かはは! と笑えば、腑に落ちない顔をいた舞織の表情も段々と柔らかなものになってくる。



ちゅっ と唇に自身のソレを押し当てて。


メリークリスマス と囁いた。