そっと額に唇を寄せるのは、一種の合図。

くらくら

「…息、吐けな?」

「…ぅ ん…っ」



ソッ と髪を梳いて微笑んでやれば、苦しそうな表情が少しだけ和らいだ。


幾度受け入れても慣れないソコも、今だけは愛液によって潤滑油以上の役割を、まるで中に入る事を誘うかのように溢れ出していた。



「…ッぅ、あ っ……ッひゃあぁあっ…ッ!!」

「…つ…ぅ、っ!……えっ……マジで?」



媚薬ってすげぇな…

真っ先に人識の頭に浮かんだのがこれである。



ぐちゅぐちゅ と摩擦を起こしながら挿入し切った後、微動だしただけで、舞織は二度目のオルガスムスを迎えてしまった。



苦しいほどの締め付けにも関わらず、達しなかった自分を褒めてやりたい

と人識は一人、心の中で自分を笑った。



「…舞織?」



俯いてこちらに表情を見せない舞織に、人識は首を傾げて、顎に手を添え自分の方へと向かせた。



「どうした?」

「…っう…ぅ…人識く…ん っ」



交わった瞳、舞織の目から、ボロボロ と大粒の涙が溢れ、零れていた。



「わ、わたし…おかしく っく…なっちゃったのかなぁ…?」



涙を拭う人識の手を握って、舞織は、ぽつぽつ と言葉を紡ぐ。



「何で…そう、思うんだ?」



ズキズキ と痛む良心はこの際無視して、後から後から零れる涙を拭ってやる。



「だって…してもしても、まだ、体が、熱いよ……ッひくっ…わたし…こわい…っ」



ぐずぐず と涙する舞織を抱き締めて、人識は思案する。


これが媚薬の仕業だと、俺の仕業だと暴露すべきか、否か。

思案するほどのものじゃない、答えはあっという間もなくに出た。



「舞織…」

「…何ですか?」

「落ち着いて聞いてくれな?」

「…?」



すん と鼻を啜る舞織に、言葉を探して、ゆっくりと言い放つ。



「これはな、媚薬のせいなんだ」

「………」

「さっき飲ましたアレ、アレが媚薬でな」

「……」

「…えーと……ごめん、なさい」



ぱちくり と目を大きく瞬くと、涙がまた、ボロリ と零れた。



「……びやく…」

「そう、性欲を増進、保持させる薬…です」

「………う…っ…」

「ッ悪かった、悪かったって!だからもう泣くなよーっ」



再び、今度は先程よりも大量に涙を流す舞織に、人識はいよいよ土下座でもしようかと

―そもそも、この体勢で暴露する事じゃなかったな― と、中に挿入されたままの雄を、抜こうとして……



「……ッ…あの、…舞織サン?」

「……お…っ」

「お?」



ぎゅう と締め付けられた。


達しそうになるのを、唇を噛んで堪える。

今達したら、格好悪さ最大級である。



「怒るのは、また後で!」

「…うん」

「今は…な、……」

「な?」



悔しさに、恥ずかしさに顔を朱に染めて、舞織はふいとそっぽを向いた。



「今は…何とかして…っ」



体がどうにかなっちゃう、よ… と辛そうに息を吐く舞織に、人識は言い表せない程の申し訳なさを感じた。


元はと言えば、興味本位で乱れる姿が見たい と

邪且つ、救いようのない安易な考えで使ってしまった俺なんて、傑作どころか、戯言ですらない。



「……人識、くん?」

「ッ舞織!」

「は、はいっ?」

「体が治まるまで付き合うからな」

「……う、ん…」






それから言葉通り、精力が尽きるまで、今度は別の意味で体が言う事を利かなくなるまで、ソレは及んだ。



勿論その後、人識が通販した媚薬は、舞織によって燃えるゴミとして処分されたとか。




裏祭りの一つでした。