それから半日経って、冬でなくて良かったと実感した星降る夜。


人識はおもむろに目を開けた。

Honey Bunny Baby

「……舞織…」

「何ですか?」



僅かな衣擦れで、目を覚ました事に気付いた。


けれど、舞織はそちらに目を向ける事なく、先程までと変わりなく夜空を見上げていた。



「あまり動かないで下さいね、傷口が開いちゃいますから」

「ん?ああ、これはあんたがやってくれたのか」



人識が、ゆっくりと 手を空に揚げるのが視界の端で見えた。

傍らに置いてある救急箱に、チラリ と目をやって小さく頷く。



「最低限の事しかできませんでしたから、後でもっとちゃんと…」

「イヤ…良いよ」



よっと そんな声が小さく聞こえたかと思えば、ひょい と隣に人識の姿が現れて、舞織は座っていた位置をずらした。



「傷口開いちゃいますよ」

「んなヤワじゃねえよ」

「ちゃんとした手当てもさせてくれないんですか?」

「ああ、あいつは俺がいないとダメだからなー」



ふ… と遠くを見て笑うその顔は、自嘲にも似ていた。



「彼女さんですか?」

「いんや。俺にとっても似ていてとっても似てない、ただの欠陥製品だよ」



お、流れ星 と人識が指指す先に目をやれば、ただの星空。


……ちぇ、見逃しちゃった。


てーかさ と人識は続ける。



「さっきから俺の心配ばっかりしてるけど、あんたは平気なのか?」

「大丈夫ですよ」

「その割りに、俺より包帯が多い気がするけど?」

「包帯使い過ぎて人識くんまで回らなかっただけです」

「おいおいおい、そりゃあ…酷くねえか?」

「だから、ちゃんと治療させて下さい…って言ってるんです」



くしゅん と小さなクシャミが出る。

夏の夜風は当たり過ぎると風邪を引くってのはホントなんだなあ… とぼんやり思った。


そんな事を取り止めもなく思っていると、突然目の前に手の平が差し出された。



「?わたし、手相なんて見れませんよ?」

「行こうぜ」

「…ど、こに ?」



行 こ う ぜ


たった、その一言に 心臓が激しく鐘打った。



一体どこに

連れ行っていってくれるの?


わたしを…


貴方を、想うわたしを……?



グルグル と迷宮していく思考を放って、人識くんは、ニヤリ と笑った。



「手当て、してくれるんだろ?」

「………」

「…?んだよ、口から出任せかー?」

「…いえ、し、します…けど」

「けど、何だよ」



その手に腕を重ねれば、グイ と引き上げられる。

ズキリ と痛み。

視界が涙に滲んだ。



「……何でも、無いです」

「んんー?泣いてるのかー?」

「なっ、泣いてませんよ!!」



痛い 痛い

傷が?心臓が?


どこもかしこも ボロボロだ


痛くて痛くて

涙が 止まらない



「ああもう!早く行きましょうよう!」

「へーへー」



悲しみの涙は、流れ星のような軌跡を描いて、頬を静かに伝った。