パンッパンッ!!!



「胸が」
「背が」

「「大きくなりますように!!」」

願い事

窓辺に二人。

キッチンから一人、リビングから一人、窓辺へと集まる。


真剣な顔つきで手を合わせている人識と舞織を見、双識は小さく苦笑いを零した。



「二人とも…神社の参拝じゃないんだから、そんな声に出さなくても…」

「ですがね、お兄ちゃん!こっちの方が織姫さんと彦星さんに聞こえそうじゃないですか!」

「それに時間帯を考えるっちゃ。そんな大声出すと近所迷惑っちゃ」

「ハッ、バカだな大将は。大声出さないと二人のところまで聞こえないだろー?しかも今日は曇りときた。これは試練なんだよ、大将」

「…なるほど」

「いや、アス!納得するんじゃない!三人とも!良いからほら!短冊に願いを書いて笹の葉に括り付けて、さっさとドアを閉めよう?」



蚊がね、入って来るんだよ。


パン と手を合わせながら双識が言う。

どうやら失敗したらしく、手の内を見ながら双識は首を傾げていた。



「蚊はいけませんね、私、食われやすいんですよ。ほらほら、二人とも、さっさと願い書いちゃって下さい。

 そしてさっさと括り付けて、さっさと閉めましょう!」

「「…横暴」」

「まぁまぁ。…よっ」



パンッ



「あれー?」



またも失敗したらしい双識は置いておいて、舞織は紙に向き直る。


何を書こうか。


願い事、叶って欲しい事は沢山ある。

けれど、そんなに贅沢を言ってしまっては呆れて聞き入れてもらえないかもしれない。


選りすぐりの、最大級のお願い事を…



「んんー…」


* * *


「…アス」

「何っちゃ?」

「やっぱり二人は出来ているのかなあ?」

「誰と誰が何だって?」



静まり返った夜更け。


雨が降り出した事で、部屋の中へ仕舞い入れた笹の葉に括り付けてある紙を見ながら、双識は複雑な表情をしていた。


ついと肩越しに覗いて見ると、そこには二枚の短冊。

それぞれ下の方に、舞織、人識、と書かれてある。



他人の願い事を見るなんて随分野暮な事をするっちゃねえ…

口には出さないものの、軋識はそう呟いた。




『人識くんの傍にたくさんいられますように 舞織』

『舞織の傍にいられますように 人識』




「……何だかとても複雑な気分だよ…」

「複雑?こんなに俺達を思う弟達のどこに不満があるっちゃ」



何かに気付いたように軋識はそう言って、二人の短冊の裏側、色の付いている方を双識に見せる。




『いつまでも4人で仲良く暮らせますように』

『兄貴も大将も、元気でいれますように』




「……二人とも…」

「明日も早いっちゃ。とっとと寝ろ」

「ああ、そうだね」



パチッ――

リビングの電気を消して、そこで始めて気付いた外の景色。



雲が通り過ぎて、その夜空には、天の川が、空いっぱいに広がっていた。




曇っていても織姫と彦星は会えるんだそうです。

一日遅れの七夕話でした。