「階数は十五。号室は三○二、ネームプレートは…



手の内にある紙と目の前のプレートを交互に見遣る。

何回も何回も、それはもう何回も。



「…ここかぁ」



細めていた瞳を漸く元に戻して、改めてプレートを見る。



ドキドキと高鳴る胸に手を当てて

それから緊張に震える手で、なんとか紙を四つ折りにしてポケットへ仕舞い込んで


そして漸くドアノブに手を掛けた。

Dear…

「あ、お兄ちゃん。そこのお醤油取って下さい」

「おま、こんな至近距離にいるくせに人に物を」

「はい伊織ちゃん」

「兄貴も!こいつを甘やかしてんじゃねえよ!」

「だって、右手にお箸、左手にお茶碗ですよう。もう手は余ってないんです」

「だったら置けよ!」

「人識、煩いっちゃ」



バンッッ



思わず、開けたドアを思い切り閉めてしまった。

今度は違う緊張に、バクバクと騒ぎ出した心臓に、はギュウッと服を握り締めた。



「!!?……なっ、何でぇ…っ?!」



ドアを開けたらそこは何とやらだった、じゃあないけれど…



「…三○二号室、。…確かにここは私の部屋だよねぇ?」



先程のネームプレートを声に出して読んでから、斜め三十五度に首を傾げてみる。

ドクドクと踊る心臓は未だ健在であれど、脳は漸く活動を始めたらしい。


確かにここは私の部屋で。

なのにドアを開けたら、見知らぬ人達が小ぢんまりしたダンボールを囲んで鍋を突付いていた。



真昼間から鍋…



「っていうか私の荷物!」



ハタと記憶の中の映像に見覚えあるダンボールがあって、は思わずドアを開けた。



「人識くん、卵取って下さい」

「ん」

「どうもー」

「ちょ、待て。ソレは俺のだっちゃ!」

「アス、食事の時は静かに」



何事も無かったかのように、最初開けた時と全く同じにその四人は賑やかに鍋を突付いていた。



「あ、あの!」



は、ドキドキと早鐘を打つ心臓に構わずに声を上げた。

このままでは話が進まないような気がしたので…



「……?何か用かい?」



一番奥に座っていた男の人が ―何でスーツ…?― こちらに視線を向ける。


四人の視線が全部私に集まって、今にも心臓が爆発しそうだった。


昔から発表会は苦手、人から注目を浴びるのも苦手。

緊張が高まり過ぎると、今みたいに心臓が早くなって、呼吸さえも困難になってしまう。



「…こ、…こ、こ…」



落ち着けと何度も自分に言い聞かせるが、息苦しくなるばかり。

それでも漸く始まろうとしてる新しい生活の初っ端、いつものように気絶するわけにはいかない。


気絶したって、誰も助けてはくれないんだから。


は息を大きく吸い込んだ。



「わ、私の部屋…」



よし!ちゃんと言えた!



「…ですよ…ね?」



ああ、やっぱりだめ…

四人が驚く顔を最後に、は意識を手放し、その場に倒れた。