01:かわいい
ふわふわと、ぐしゃぐしゃと

優しく、乱暴に

髪を撫でて、梳いて


かわいいとあなたは笑う。

かわいいとキスしてくれる。


嬉しいけれど

ドキドキするけれど


そんなに言われると

俺でなくても、良いのかな?って

思えてきちゃうよ。
01:かわいい
「笠井ー」

「はい?」



ただ同じ時間を共有していたくて、夜中、お互いの相方と部屋を入れ替わる事がしばしば。

何をするでもなく、同じ事をするでもなく、ただ一緒にいるだけ。



「何ですか?」



先輩は、おいでおいでと俺に手招きする。

訝しげに俺が近寄れば、今度は自分の膝の上を指し示した。



「…お邪魔します」

「どーぞどーぞ」



これは約束。

この時間だけはお互い素直でいようと意地っ張りな俺たちが二人で決めた事だった。


俺は恥ずかしさから俯きがちに、先輩の胡坐の上に座る。

向き合う形ではなく、俺が先輩の胸に寄り掛かるカンジで…。

だって向き合うなんて事になったら、抱き締められるだけでは済まなくなる。



「笠井ってさ、可愛いよな」

「…俺、男ですよ?」



ふわりふわりと優しく髪を撫でられて、猫が気持ち良さそうにするみたいに、俺は目を閉じてひっそりと笑みを漏らす。


ヒヤリと冷たい手は骨ばっていて大きくて、とても好き。



「ん、男だけどさ。見た目とかも…スカートとか穿けば女に見えなくも無いしさ、仕草とか、声とか、髪とか、行動とか、…何つーか、全部かわいいよ…」

「…それは、俺が女々しいって事ですか?」

「んな皮肉るなって…。褒めてんの。そゆのがかわいくて好きだって言ってんの」



ギュッと抱き締められて、好きだかわいいだなんて言われて、嬉しくないはずがないのに、約束したのに嫌味ったらしく、トゲトゲとした言葉を吐く自分が嫌い。



「じゃあ、俺みたいな女の子が現れたら、先輩はどうする?…俺と、その娘、どっちを選ぶ?」

「んなの、決まってんだろ?」



首を捻って、ジッと見遣ると、またかわいい、と言わんばかりに髪を撫でられた。



「笠井竹巳クンに決まってるだろ?」

「どうして?」



絶対女の子を選ぶと思ったのに…。


だって、女の子の方が明らかに、リスクもデメリットも少ない、…少なくとも男よりは。



「じゃあ逆に聞くけどさ、俺と、俺そっくりの女…ってのも気持ち悪いか…俺そっくりなヤツがいたら、どっちが良い?」

「先輩が良い」



間髪入れずにそう言うと、先輩は嬉そうに俺の髪を撫でた。

今度は、ぐしゃぐしゃと、乱暴に。



「そういう事だろ?」

「…………うん、…」



どこかが愛しくて愛しくて堪らなく好きでいても、その堪らなく好きな部分を他の誰が持っていたとしても、貴方でなければ、意味が無い、と…。



全くもって、その通りです。



「……そうだね。俺も、三上先輩以外はヤだな…」

「――――ッッ!!やっぱかわいいわ…」



ギュウッと抱き締められて、髪を撫でられて、沢山キスされて…。

先輩は、かわいいかわいい、と俺を抱き締める。



好きなのは、俺自身なのだから、

かわいいと言われるのを、拒絶せずに、受け止めてあげようか。