ふわふわした世界の中には、可愛い双子と、自分しか存在していなかった。 『もぎはねえ、将来お兄ちゃんと結婚したいなあ』 ほっぺが柔らかくて、髪がふわふわと揺れる双子の一人が、愛らしいことを言ってくれる。 ピピピピピピピピピピピピピピ 「うんうん、そうだな、お兄ちゃんと結婚しようなあ」 ピピピピピピピピピピピピピピ 嬉しくなって堪らず抱き締めれば、袖をぐいぐいと引かれた。 『私だってするう!』 見遣れば、さらりと揺れるストレートが将来美人を期待させる双子の一人の姿があった。 ピピピピピピピピピピピピピピ 「おうおう!わかもお兄ちゃんと結婚だよなあ」 ピピピピピピピピピピピピピピ 双子揃って兄泣かせなことを…!と抱き締めれば、ちがうう!!と腕を突っ撥ねられた。 『違うもん!わかはもぎとするんだもん!』 ピピピピピピピピピピピピピピ 「え?」 「いい加減起きろおおおおおおお!!!!」 ちょっと言いにくいんだけど。 そこで夢はおしまい。 現実は、厳しく、そして、とても… 「いてえ…」 激痛と共に体がふわりと浮いて、それから床にたたきつけられるようにして、体が打ちつけられる。 痛い、とてつもなく。 状況を理解するのに十秒、そして俺は重病。 起き上がれずに、床で呻いていると、自分の上から声が降ってきた。 「アラーム泣かせなことしてんじゃねえよ、亜路慧の分際で」 「だからって蹴りいれることねえだろ………馬鹿力…んなんだから男で…うぐっ」 「しね」 恨みがてらに呟いた言葉には、百倍返しの鉄鎚が下る。 心に刻み込まれるきつーい一言と共に、鳩尾に入り込んだ蹴りを打ち込んだ姉は、整った眉を顰めたまま、部屋を出ていってしまった。 立て続けに受けた痛みに悶えていると、姉、牡丹の出ていったドアからひょこりと小さな顔がこちらを覗き見た。 「おーにいちゃーん」 「もぎい〜、おはよう〜っ」 「おはよお〜っ」 痛みも一瞬にして吹っ飛ぶその笑顔。 天使の微笑みを浮かべながら、可愛らしく小走りに駆け寄ってきてダイブをかます妹に呻きながら、その身を受け止める。 やはり天使のように軽い体と、その柔らかな体をぎゅーと抱き、幸せを噛み締めていると、ふと物足りないことに気付いた。 「もぎ、わかは?」 「わかちゃんは今ご飯たべてるよー、おにいちゃんもはやくって、おねえちゃんが」 「んー、まずは着替えだなー」 抱き締めたもぎをおろして、背伸び。 たかいたかいをせがむ妹に負けて、肩に担いでくるくるしているところに、再度降臨した姉。 と、ほおぶくろ宜しく詰め込んでいるもう一人の妹がやってきて、騒がしくけたたましく和風の朝は始まる。 「牡丹は将来いいお嫁さんになりそうですね」 「あなたも早くご飯食べてくれませんか?」 二階から聞こえる足音と騒がしい声に耳を傾けながら、湯飲みに口をつける男に、切れ長の目をした女が冷たい一言を放つ。 「亜路慧さん、早く下りてきてくれないでしょうかね…」 父さんは肩身が狭いですよ。 男はそう呟いて、また湯飲みに口をつけた。 |