SADIST -三上亮の場合-
愛しいが故なんだって…。
SADIST -三上亮の場合-
「笠井…」

「……っ…なん、ですか?」



ビクリと、肩竦ませて。


ただ、呼んだだけなのに。

頬染めて、けれど怯えた瞳で振り返って。


長い付き合いだから、声色で、雰囲気で、分かってしまうものなのだろうか…



「ここ」

「……そこ?」



泣きそうに顔歪めて、指差す先は俺の膝の上。



嫌だと暗に目で訴えるのを、気付かないふりして

じっと待っていれば

やがて諦めたようにのろのろと、膝立ちでフローリングを擦って近づいてくる。



「…どうしても?」

「何度も言わすな」

「………」



涙が、瞳の上に、溜まる。



下唇噛んでグッと堪えて、恥ずかしそうに俯いて、俺の膝に座った。


跨ぐように足を広げて、向かい合うようにして座らせる。

ゆるりゆるりと肩口に顔を埋めて、暫し、小さな嗚咽が漏れた。



「顔、見せて」

「…いやです」

「笠井」

「…やだっ」



背中をポンポンと叩いてみるが首を横に振るもの、縦には振ろうとしない。



「笠井、俺のコト好きなら顔見せて」

「………好きだけど…やだ…」

「…ハァ…もういい。降りろ」

「…っ…や、…やだ…っ!」



語気を強めても、逆に優しく言い聞かせても、首を横に振る。



小さく溜息を一つ。

膝から降りろと指示すれば、先程よりも強く、首が横に振られた。

ギュウゥッと服を握り締めて、イヤイヤと首を振る。



「じゃあ顔、見せて」

「……」

「ん、イイ子」



ゆっくりゆっくり顔が上げられて。


赤い顔と目が合った。

ちなみに目も充血してて赤かった…。



「可愛い顔が台無し」

「うるさい」

「うーそ。すげぇ可愛いよ」

「ううぅ…聞きたくないですー…」



ちゅと額、頬、瞼、目尻、鼻、とキスを落としてけば。

遂に涙が零れた。



「よしよし」

「泣いてませんーっ」



ボロボロ零れる涙を根こそぎ舐め取れば、涙が止まって頬が殊更赤くなった。



「キス、しよっか」

「………うん…」



ギュッと目を閉じた笠井に苦笑して。


みずみずしく潤った唇を、味わうように、何度も何度も食んだ。



漸く唇が離れた時



いじわる…と息苦しそうに、喘ぎ混じりに、ぐったりと。


崩れ落ちる際に吐かれた悪態は、俺をゾクゾクとさせる。



泣かせる事も

慰める事も

甘えさせる事も

甘える事も



愛しいが故なんだって…。