居場所
「隼人、いる?」

「…10代目?」



控えめなノックの後、控えめにドアから顔を覗かせたのは、ボンゴレの若き10代目の姿だった。
居場所
「ごめん、手入れ中だった?」

「いえ、大丈夫ですよ。このような夜更けに如何なされたんですか」



部屋へ通せば、ありがとう と小さく礼を述べて、10代目は沈み込むようにベッドへと倒れた。


オレは、テーブルに広げてあったダイナマイトを片付ける。


この人はとても優しいから、喧嘩や抗争を人一倍に嫌っている。

それによってオレが傷付く事も、オレによって誰かが傷付く事も、オレの手が傷付く事も。



「何だか、眠れなくってさ」

「大丈夫ですか?」



はぁ と小さな溜息の後、おいでおいで と手招きされるように、手を振られた。

促されるままにベッドに腰掛ければ、ぎゅう と腰に縋ってきた。



「10代目?」



遠慮がちに髪に触れれば、気持ち良いとでも言うように10代目は目を閉じた。



「眠れなくて…それでも眠らなきゃって、目を閉じるんだ。でも眠れない。そして君の顔が浮かぶんだ、隼人…」

「…10代目」

「ごめんね、迷惑かけて………それでもやっぱり…俺の居場所はここなんだ」

「そんな、迷惑だなんて…。オレで良ければいつでも。」

「ありがとう」



それから数分もしないうちに10代目は意識を手放した。

部屋を訪れた時よりかは幾分か和らいだ表情に、少しホッ とするものの、歯痒い気持ちに駆られる。



オレが望んだ事だけれど…

矛盾しているけれど…



「10代目…」



呟いた言葉に返事は無い。


だが、代わりにとでも言うように、未だ自分の腰に回された腕に

―もう、何人の人を殺めたか分からない細く白く不健康そうなその腕に― 少しだけ力が篭った、気がした。


ただの勘違いかも知れないけれど。



貴方の不安を取り除く術を俺は知らないし、持ち合わせてもいない。

知る権利は無いし、教えてもくれないだろう。


だから、そんな事を探ろうとも、聞こうともしないけれど。



オレは、いつでも貴方を想うから。



どうか

どうか…