暗い
暗い
暗い
暗い
暗い

何も見えないそこに、あったものは…


ぬるり と

赤い

黒い

三つの

お兄ちゃん達の

首でした

「お兄ちゃんっ!!」



ガバッ と起き上がる。

スズメの囀りが外で聞こえた。


周りを見渡すと、そこは確かに自分の部屋であり、それは即ち、あれが夢だという証明であり…


ヒヤリ と背中を伝う汗。

ドクンドクン と静まらない心臓。


夢だと言い聞かせるより、確かめた方が早かった。





ダダンッダダダダダッゴンンッ…ダダッダダダダダダダッ





「うわ、ゴンッて言ったよゴンッて。痛そ」

「舞織は丈夫だから大丈夫っちゃ」

「そーいう問題?」



バサッ と新聞のページを捲りつつ人識が眉を寄せて嘆いた。

軋識は自信満々に頷きながらテーブルに置かれている煎餅に手を伸ばした。



バンンッ!!



「生きてますか生きてますよね生きてると言って下さいお兄ちゃん達!!」



赤いチェックのパジャマを着た少女、舞織は、ドアを破壊して涙目で叫んだ。



「生きてまーす」

「…ちゃ」

「…双識さん……お兄ちゃん、は?」



ひらひら と手を振る人識と、不思議そうな顔をして頷く軋識に胸を撫で下ろしたのも束の間、一人足りない事に嫌な汗が頬を流れた。

と、背後から、ペタペタ とスリッパの音がして振り向いた。



「伊織ちゃんを置いて死ぬわけないでしょう」



ピンクのエプロン姿をした双識が、良い匂いをかぐわせた皿を持って微笑んでいた。



「…名前、舞織だろ」

「俺達より舞織とドアが瀕死っちゃ」

「ホントだ」



キィコ…キィコ…… とドアは悲鳴を上げて不安定に傾いていた。

上のネジが外れ、今にも、バキリ と音を立てて床に伏しそうである。



「…皆、無事なんですね………よ、良かったぁ…」



汗がだらだら、血もだらだら


それでも兄達が生きている事に、舞織は静かに微笑んだ。



「じゃあ全員揃ったところでご飯だから。アス、手伝って」

「何で俺がー」

「人識が忙しいから」



テーブルを拭いて、皿を取りに行ってそれをテーブルに並べて、とソレを繰り返す双識。

口を尖らせて、それでも素直に手伝う軋識。


その様子を、ぼんやりと舞織は見つめていた。

人識が、くい と舞織の顎を持って顔を自分の方へと向かせる。



「舞織。こっち向け、うまく貼れない…ってなに笑ってんの」

「えー、幸せだからですよう」

「ふぅん」

「人識くんはそう思わないですか?」

「んんー…退屈はしねぇけど、なぁ?」

「?…いたっ」

「オシマイー」



額を、バチン と叩かれて涙が滲む。


さて… と人識は引き続き新聞を読み出した。

舞織は叩かれた痛みに床を、ゴロゴロ とのた打ち回る。



「うなー、痛いですようー」

「ん?ああ、そりゃ当然、愛は痛いものなんだぜ」



ニヤリ と笑んだ人識に、舞織は恨みがましい目で睨み付けた。



「うう…痛いのは嫌ですよう」

「人識、伊織ちゃんを苛めるんじゃない」



最後の皿をテーブルに乗せつつ、人識を戒める双識は様にならない。

なんせピンクのエプロンだ。



「舞織だっちゃ」

「『伊織』の方が可愛いじゃないか!」



グッ! と拳を作ってどこか遠くの世界へいってしまった兄を、チラリ と見やってから、舞織は箸を持ち両手を合わせた。

人識と軋識もそれに習う。



「お兄ちゃんは放っておいてご飯にしましょう」

「だな」

「ちゃ」

「ええっ酷いっ!!」



こんな日々が、いつまでも続け。

それがダメなら、みんな一緒に殺してください。


お願いします。


舞織は心の中で神に祈った。




初めて書いた戯言話。恥ずかしー。