部屋の中は、纏わりつくように暑苦しくて…いや、凍てつくように肌寒くて…

とにかく、喉が潤いを欲していた。


部屋の中は、甘ったるい匂いで充満していて…いや、ほろ苦いようなにおいが広がっていて…

とにかくとにかく、喉が渇いたんだ。




部屋の中は―――………

纏わりつくその体と、冷たい温度と、甘ったるい声と、ほろ苦いにおいで、満ち満ちていて…



「伊織ちゃん…っ」



喉の渇きを癒すように、唇を合わせた。

熱帯夜

誘ったのはどちらからだっただろうか。

きっと伊織ちゃんだろうな、私の理性は言っておくが、そんなに脆くはない、はずだから。


きしむベッドの端で、申し訳程度に引っ掛かるタオルを見て、記憶が掘り起こされる。



誘ったのはやはり伊織ちゃんだ、奪ったのは…私だったけれど。



「お、おにいちゃ…っ」



自分の腕の中で、ヒクッと動く彼女に目を向けて、にこりと笑いかける。

胡散臭いと好評のその笑顔を。



「っん、んんっ!」



生乾きの髪は枕を重く湿らせて、意思を持ったそれのように揺れている。

湯冷めした体は私の手に交わることなく冷えたままで、可哀想で口付ければ甘い吐息が漏れた。



「あ、明日…早い、んですけど…」

「ちゃんと起こしてあげるよ」

「はっきり言いましょう、辛いので起きれないので寝たいんです!」

「優しくするよ、そして早く終わらせるからね」

「ううう」



戯れ合いのような会話の間にも、節操のない手は冷たい体を這って動く。

動く手に合わせて揺れる体だとか、顰められる眉だとか、震える肩だとか、噛まれて赤くなった唇だとか…堪らなく、堪らなく。



「伊織ちゃんはもう少し、私の理性の脆さを知るべきだと思うよ」

「今まさに激しく後悔しています!軋識さんの所に行けばよかった!!」

「………」

「はっ!さらに後悔!」



今頃ベッドの下で無残に折れたかよれたかしているであろう、ノートとペンケース。

濡れた髪と、捲りあげられたキャミソール、ベッドの端にかかるタオルに、床のノートとペンケース。



伊織ちゃんは選択を間違えた、つまりはそういうことだ。



「っう…」



選択を間違えた彼女、そして私も恐らく…と言うまでもなく間違えているのだろう。

いとも簡単に取り払われたホットパンツは、情けなく脇でくしゃくしゃになっていて。


細くて長くて、針金だったら絶対痛い、その指が足の付け根を行き来する。



「まだ痛いかい?」

「痛いか痛くないかと聞かれたら痛いに決まってます!」

「こんなにぬる――「ぴーぴーぴーぴーっ!!!」

「ポケベルとは時代錯誤だね」

「変態に言われたくありません!!」

「失敬なやつだ」

「あっ、ちょ、や、やっ!」



体勢を変えて、その身を倒し、片足を抱えた。

バランスを失った彼女は、慌ててその手を伸ばすものの、私の方が速かった。



「っつ、ひっ、んっ!」



割って入れた指はなんなく飲み込まれて、うねるようなその熱い中へと食み込まれていく。

嫌がるように振られる首元に口付けて、伊織ちゃん、と何度も名前を口にする。



「あ、あ…お、おにいちゃ…っ」



指の動きに合わせて体を弾ませて、辛そうに涙を浮かべて、噛みしめて赤くなった唇が甘い言葉を返す。


人差し指にくわえ中指も同様に押し込んで、引き千切らんばかりの中を掻き回す。



「うあ、あっ、ああっ…も、…っ」

「言える…よね?」

「ん、んっ」



縋りつく腕を離して、揺れた双房に舌を這わせる。

がくがく頷く頬を撫でて、促すように腰に触れた。



「い、いれ…」

「何を」

「お、お兄ちゃんの…」



恥ずかしそうに目を伏せてその長い睫毛を震わせながら、白い手がゆっくりとした動きで私の下半身を掠った。



「これ」

「まだ痛いかもしれないけれど」

「いい…我慢…できるから」

「そう」



陥落した彼女は悲しいほど従順で、繊細でか弱くて、愛おしい。

褒めるように濡れた額に口付けて、熱く猛った己を取り出し、濡れた指を食んでいたそこへと宛がった。


すかさず走る緊張をほぐすように、何度も、何度も口付ける。



「伊織ちゃん…」

「ん、あ、…ふっ」



音が響くような口付けを、彼女は最初の頃、顔を真っ赤にしてひどく嫌がっていて。

それがまた堪らなくて、嫌がるのを宥めすかしてはぐらかして、唇がふやけるほどに触れ合った。


なのに彼女はいつまで経っても慣れてくれない。

まだ何も知らないそれのように顔を赤らめて、全てを知り尽くしたそれのように誘ってみせる。



「伊織ちゃんは怖いね」

「…ん?…」



ぼうっとしたような瞳に笑いかけて、宛がった己を熱をもったそこへと埋め込んでいく。



「ううう〜〜〜っ」

「痛い?」

「―――っん、んんっ」



痛いだろうに、健気に首を振る彼女はもうどうにも形容しがたくて。

せめて早く痛みが消えるようにと、一気に奥まで貫いた。



「うあああっ!あ…あっ…!」



指の時とは比較にならない逸物に、伊織ちゃんは涙を零して背を仰け反らせる。

熱い中は蠢く自分を拒むように、いや受け入れるように締めつけてきて、搾り取られてしまいそうな力に思わず苦笑してしまう。



「伊織ちゃん、分かるかい?」

「ん、…おにいちゃ…は…はあ…そ、そうしき、さん…っ」



名前なんて自分を表現するための一つの看板でしかないのに、紡がれた単語に得も言われぬ歓喜が襲ってきて。


ああ、何が優しくするよ、だ。

あとで怒られるだろうなあ…とそんなことをぼんやりと考えながら…苦しくなった己の律動を開始する。



「っ!!…あ、あっ…まっ…もっとゆっく…り…ああ!!」

「全部…っ伊織ちゃんが、全部いけないんだよ…」

「い、いみがわかんな…っや、一緒にさわ…っちゃ…っ」



肌のぶつかり合う音に合わせて、溢れたものが泡立つように濡れた音を響かせて。

掌から零れ落ちる双房を形が変わるほどに弄って、合間も絶え間なく抽送を繰り返す。


口の端から伝う唾液を舐め上げて、シーツを握る手をとった。



「伊織ちゃん…っ」

「あ、あっ…あっ!…ん…も、…ダ、メッ!」



握り締められた手は、爪を立てて手の甲に跡を残す。

痛みに顔を顰めながら奥深くへと貫けば、耐え切れないとばかりに彼女は甘い悲鳴を残して果てる。


煽られるようにして、すかさず取り出せば白濁とした液体が、白い肌を濡らした。



「…はあ…は…はあ…ね、ねむいい…」

「……もう一回しておこうか」

「は?は!?聞こえなかったんですか!?わたし今ね!む!い!と言ったんですけど!?」

「そうだね、夜だからね」

「や、ちょ、ま…っああっ!」



濡れたそこは、なんなくまた自身を受け入れて、嫌がる彼女は意思とは裏腹に嬌声をあげる。


ぐちゅぐちゅとおかしながら、睨みつけるような、堪らなく煽られるその瞳に見つめられては、答えないわけにはいかない。



体を押さえつけて律動を繰り返し、声が掠れるまで日が昇るまで、いつまでも…