キーン コーン カーン コーン――…

秘め事

「お兄ちゃん、良い大人が指を口に銜えるのは如何なものかと思いますよ」



ぎゅるるるる



「お昼ご飯がない私の前で、悠々と堂々と見せびらかすようにひけらかすようにお昼ご飯を食べるのだって如何なものかと思うよ」



ぐううぅぅぅ



「今はご飯を食べる時間なのですよ。食べる時間に食べていて何が悪いんですか?」



そう言って、舞織は引き続いて食事を再開する。


ぎゅるぎゅる と鳴るお腹に手を当てて、双識は気を紛らわそうと辺りに目をやった。



日の光もロクに入らない寒ささえも覚えるこの暗がりの部屋は書物庫である。



チャイム音で意識が浮上した時には、私は既に書物庫にいた。

伊織ちゃんの話では、私は何故か図書室に入ったと同時に気絶したらしい。

そんな私を伊織ちゃんは傷付いた足を庇いつつ、図書委員しか入れない書物庫に運んでくれたらしい。


暗くて埃っぽくて黴臭いここは、見渡す限りの本の山だった。

勿論、私や伊織ちゃんが座っているのも古びれた本の上だったりする。



「ご馳走様、美味しかったですよ」

「…どうも有り難う」



空腹は人を苛立たせるとは本当の事らしい。


ぱし と両の手を合わせてから、片付けをする仕草だって、いつもなら微笑ましく、愛しくさえ思えるのに、

今ばかりは、じわじわ とした苛立ちしか沸き上がってこない。



「伊織ちゃ…」

「零崎ーっ」

「お兄ちゃん?…ッ!何ですかー?」

「ちょっとは手伝えアホウ!」

「…アホウだって?」

「アホウって何ですかアホウってー!」



ちょっと行ってきますね と双識よりも怒りを露わにして、舞織は書物庫を出て行ってしまう。



お腹は減るし、妹を阿呆呼ばわりする我鬼はいるし、暗くて寒くて黴臭くて……


知らず知らずに、足が貧乏揺すりを始めてしまう。


それでも舞織に迷惑かけまいと、自分は大人なんだと自制して

双識は、ただ眉を顰めるだけに留まって、舞織が戻ってくるのを大人しく待っていた。