「暇ですねー」

「つまらないかい?」

「ですねー」

「一緒に遊ぼうか」

「ぜひ!」

揺ぎ無いその一言

「で、どうして隠れんぼになっちゃったんだろうねぇ」


『じゃあ、隠れんぼしましょう、お兄ちゃん!場所はこの家の中。……絶対に見つけて下さいね』


「そして私が鬼なのは予め決まっていたようだけれど…まぁ、良いか」



伊織ちゃんが楽しいならそれで。

うふふ と微笑みながら、小さく100 と呟いた。



「さて、と」



ここはリビング。


何事にも本気を出す伊織ちゃんは、ご丁寧にも私に目隠しと耳栓を施して行った。


しゅるり と目隠しを外して目を慣らす。


物音一つしない静かな昼下がり。


全く、これほど暇な日曜日も珍しいものだ。

そしてこんなにもよく晴れた日に空調の利いた室内で隠れんぼとは…



「どこに隠れたんだろうねえ」



すっく と立ち上がって耳を澄ます。

まぁ、先程同様、静寂が部屋を包み込んでいた。



『わたし、隠れるの得意なんですよう』;



双識に目隠しをしながら舞織は自慢気にそう言っていた。



「お手並み拝見だよ、伊織ちゃん」



ストーカーと等しき存在の双識に舞織を見つけるのは容易い事だった。





はずだったのだが…



「ふむ、とりあえず個室にはいないようだね」



風呂場とトイレ、リビングダイニング脇の押入れ、それからリビングダイニングへ繋がる廊下の途中の物置も調べた。

だがそれらのどこにも舞織の気配は感じられなかった。



「気配はおろか匂いまで消すとは、やるねぇ伊織ちゃんも。自負するだけの事はあるよ」



うふふ と微笑みながら、双識はリビングダイニングをアテもなく彷徨った。



「ああ、二階にいるのかな」



ふ と天井を見上げてそう思った。

このままここでウロウロしていても仕方ないし ととりあえずリビングを出た。


とんとんと階段を上る。





その音は舞織にも届いていた。



舞織はとあるところに蹲っていた。

室温は上々、汗をかく事も苦しさから隠れ場を移動する必要性も無かった。



…今回も見つけてもらえなかったらどうしよう…





舞織は、隠れている暇潰しにある事を思い出していた。



幼い頃の思い出、近所の友達、隠れんぼ。鬼はあの子。

隠れよう、とっておきの絶対見つからない場所に。


幼い頃から長けていた舞織は、隠れる事も見つからないでいる事も得意だった。


けれど幼かった自分は、隠れている間にウトウトと眠りこけてしまった。

舞織を捜したが見つからなかった子供達は、夕暮れを機に先に帰ったのだと思い込んでそれぞれの家路へと帰って行ってしまった。

目覚めた舞織はその暗さに驚き恐怖したものの、見つけてもらえると信じて待ち続けたという、そんな苦い思い出が隠れんぼにはあった。


まぁ、その後偶然に、本当に偶然にも見回っていた警官に保護されて…というわけなのだが。



見つからない事は自慢だった。

けれど見つけてもらえない事は寂しかった。


複雑である。



と、不意に、キィ、とドアが開く音がした。

舞織は息を潜める。


まさか!どうしてここが…?



「さぁて、どうしたものかな。もう残るはここしか無いのだからここにいるのだろうけれど…伊織ちゃーん」



呼んで返事をする子が果たしているのか知らないけれど、とにかく舞織は、ジッ としていた。

見つけて欲しくないと見つけて欲しいとの間で揺れる心。



「どうしてこうも人識の部屋は隠れやすい場所が多いのかな」



そう、ここは人識の部屋だった。


双識は舞織、自室、軋識の部屋を調べた後、人識の部屋へとやって来た。

やって来たは良いものの、この部屋は如何せん物が多過ぎる。

探すついでに片付けをしたいところだが、そんな事をした日には暫く口をきいてもらえなくなる事必至だろう。



「……まぁ、伊織ちゃんの隠れるところだなんて、予想が付くんだよ。…ほら、見つけた」

「…あ…」



キィ と開けられたそこはクローゼット。

双識や軋識では入れないだろう小さなそこに舞織は蹲っていた。


人というものは結構単純な生き物で、何事も基準は自分だったりするものだ。

自分は入れないから無理だろうと、そう言って開けずに他を探すはずだったのだが…



「お兄ちゃん」

「ほら、出ておいで。下でアイスでも食べよう」



手を引かれて一回へと下りる。



何で何で何で? そんな言葉がグルグルと頭の中を回る。



「ん?見つけられた事がそんなに不思議かい」

「です」

「それはね、伊織ちゃん…」

「はい」



リビングが、ガチャ と開いた。

涼しい風に目を細め、そのまま双識に倣ってソファに身を沈めた。



「愛の成せる技だよ」

「…はぁ」



うふふ と舞織の髪を撫でて、双識は立ち上がる。

ぼんやりとしたままの舞織を放って、冷凍庫からアイスを二つ取り出した。



「はい」

「つっ冷たっ」

「アイスだからね」



うふふ とまた微笑んで双識は思った。


君を愛しているからこそ、成せる技なのだよ。



「……わたしも、お兄ちゃんを愛してますよ」



何を思案していたのか、舞織は唐突にそう言ってのけ、ニコリ と微笑んだ。



「有り難う」



それがどんな意味であっても、愛してくれている事実に変わりはなく。


その日は、双識にとっても、舞織にとっても、有意義な日曜となったのであった。




10000HIT抽選フリー小説として、明木ゆめち様へ捧げたものです。

※明木ゆめち様のみお持ち帰り可です。