このお話はトキこと、零崎曲識がメインのような曲舞話になる予定です。
トキはまだ原作にすら出ていない子なので、勿論ここより先に出てくるトキは捏造のみのものとなります。
ですのでソレを踏まえて 原作にトキが出てきた時に苦情を言わない方のみの閲覧でお願いします。

どんと恋な方のみスクロールでどうぞ〜。





曲識さんが忽然と姿を消したのは、あの日からまた更に日を重ねたある朝の事だった。

確固たるその意思の名の元に

その言葉が、崩壊の始まり。

心の崩壊、関係の崩壊、否定を崩壊。



「…トキはどこへ行ったのかな?」



双識が顔を上げて、フと呟いた。

舞織は、その言葉を、意味を理解できずに首を傾げた。

傾げて、心の内で今の言葉を反復する。


『トキはどこへ行ったの?』


つまりは、トキ…曲識さんは、どこかへ行ってしまったの?



「え…?」



自分の中で出た答えに、舞織は何も篭らない、抜け殻のような声を漏らした。



どういう、事?



どういう事、

まぁ、どうと言う事は無い、


曲識がいない、ただそれだけの事。



双識がふと思い至って曲識の気配を探っただけの事。

そうしたら、家のどこにも曲識の気配が無かった、ただそれだけの事。



いつからいなかったのか、どこへ行ってしまったのか、ましてや戻ってくるかどうかなんて分からないし

一つとして分かっていたところで、自分には何もできないだろうし、できる事なんて無いだろう。



元々、自分と彼は家族とは言え会ったばかりの他人そのもの。

そして、数度会ったその中での印象は群を抜いて最悪そのもの。



知りたいと思った、けれどソレと同時に恐怖していた。

あの冷ややかな瞳を、何にも染まる白を。



「……っ」



何一つ映さないその瞳を、何にも揺らがないその感情を思い出してゾクリと鳥肌が立った。

ふるりと震え、

震えに震えるソレの意は恐怖そのもの


怖い、

あの人が、怖い



怖い

はず


なのに



じゃあ、なぜ

なぜ自分は、今、こんなにも


こんなにも、不安で押し潰されそうなのか

どうして、こんなに泣きそうに悲しい思いでいっぱいなのか


分からない

分からないけれど


その悲しい思いを自分がしていると気付いた時には、既にもう駆け出していて

兄達の呼び止める声にも耳を貸そうともせずに走り出していて

三人の兄から近寄る事すらを禁止されていた、二階の奥の部屋へと向かった。



「っは、…はぁ…っはあ」



リビングを出て階段を上っただけでこんなにも息切れして、年寄りですかと冷静な自分がツッコミをした。


自分の息切れが、心臓の音が、ただそれだけが支配する二階。


全てを禁止されていた、この空間を遮断した扉の向こう

閉ざされた世界



もし、お兄ちゃんの勘違いで曲識さんがいて、あの冷たい瞳で、眩しいような白で、蔑まれたなら


今度こそ

今度こそ、



怯えずに



わたしは


わたしは…



ぶるぶると震えるその手で、ドアノブを握る。

一向に震えが止まらないその手で、がたがたと音をさせながらドアを開ける。


がたがたと手が震えて、どくどくと心臓が鳴って、お願いだからと心が絶叫する。

けれど、ドアを開けてからというものの、全てのものが落ち着きを取り戻していった。


ドアの先に

ドアの先に待っていたもの


それは



「……まが、しきさ」



呼んでも主はいない

主の部屋は、主を失って、けれどあの人がいた事など無かったかのような…

自分がこの部屋を最後に見た時のままの状態になっていた。


勿論、彼はいない。


いないし、いたような気配すら無い。

まるで始めからいなかったような…



「…っ、う、ぅ」



ああ、どうしてこんなにも、自分の言った事に恐怖しているのだろう。

彼に見つめられた時を遥かに凌ぐ、こんな恐怖の正体を、わたしは知らない。


ああ、どうしてこんなにも、泣き叫びたいのだろう。


あなたを思うと、息ができない。