このお話はトキこと、零崎曲識がメインのような曲舞話になる予定です。
トキはまだ原作にすら出ていない子なので、勿論ここより先に出てくるトキは捏造のみのものとなります。
ですのでソレを踏まえて 原作にトキが出てきた時に苦情を言わない方のみの閲覧でお願いします。

どんと恋な方のみスクロールでどうぞ〜。





ガラスを割った手、双識が触ったその手をトキはまじまじと見つめ、それからポケットから真っ白のハンカチを取り出した。

擦るようにソレで手を拭い、はら と床に落とす。



「答えろ」



綺麗な音色は、酷い鈍色に重く暗い影を落とす。

確固たるその意思の名の元に

青年は、トン と音をさせて、どこから出したのか長い杖を逆手に持って、双識の喉笛へと突きつけた。

杖の先からは、ぎらり と鈍い光を放つ刃が双識の喉を狙っていた。

刃物を突き付けられた双識は悲しそうに笑う。



「…すまない、君はそういう事をされるのが嫌いだったね」

「何でそうなんだ」

「え?」

「暫くここにいる、奥部屋には入るな」



まるで会話をする気が無いらしい青年は淡々と言葉を並べているだけのようだった。


トキと呼ばれた青年は、ス と一歩足を踏み込んだ。

暗い外から、明るい中へ。


漸くハッキリとした姿に舞織は目を見張る。


雪よりも白いその全身は、真っ白なスーツを着ているからなのだと理解する。

シルクハットに始まって色素の薄い髪、色の白い肌、スーツ、ズボン、靴に至って、そして杖までも、つまり上から下まで白一色の装いだった。

紳士の身形をした彼の服は今、上から被ったような赤に染まっていた。

濃淡の違う赤赤赤、頭の天辺から足の爪先まで赤色をしたトキは、被っていたシルクハットを美しい所作で外す。


それから先程と同じようにして杖を床で、トン と叩いた。

とすると、柄の先に出た刃物は、シュ と音を立てて引っ込んだ。


伏せがちの目はきめ細かい肌に長い睫毛の影を落としている。

鬱を含んだその瞳は、どこをも映さない。


トキは、バルモラルを乱暴に脱ぎ捨てて、タン と床に足を付けた。

何と素足だった。



「その始末は私がする」

「あ、やっぱり捨てちゃうの?」

「無論」



踏み潰された踵を双識が直そうとするのを制止して、トキは、スタスタ と中へ入ってしまう。



「一度しか履いてないのに」



相変わらず勿体無いなぁ と呟く双識には目もくれず、トキはリビングへと入ってきた。


青白い足は止まる事無く舞織の元へとやってきて、見下ろすように見下すように舞織を見つめた。


そうして舞織は気付く。

服全体が赤いといっても所々が濃い赤色に染まっていて、それがまるでとぐろを巻くようにトキを締め付けるような形をしていた事に。



「トキ、やめろ」

「え?何がやめろなんですか人識くん」



向かいから声がして、舞織は、ハッ とする。


人識を見遣り、それからトキを見上げて驚いた。

いつの間に伸ばしたのだろう、白い手が丁度舞織の頭を掴むような形で舞織へ向けて伸びていたのだった。

その手が、ぴく と止まる。


向かいに座っている人識がトキにフォークを向けて睨付ける。

驚きに固まった舞織を、軋識が自身の方へと引き寄せる。


トキは不快を示して、その端正な顔をぐしゃりと歪めた。



「こいつは零崎だっちゃ、…成り立てだけど」

「……あ、う…」



とりあえずもうよく分からない。


舞織は視点を彷徨わせて、特に意味の無い言葉を発する。

そうでもしないと自分が自分でなくなるような、何かがどうにかなってしまうような不安を覚えたからだった。



「まだ何もしていない」

「これからするつもりだったでしょう、トキ、ソレ仕舞って」



玄関から戻ってきた双識が、ソレ と指差して、舞織がゆっくりとそちらの方へ目を向ける。


そうして、ぎくり と体が揺れる。


手にしていた杖からまた刃先が出ていた。


トキは長い髪から見え隠れする瞳を、そして眉を歪めて、トッ と音をさせて刃を杖の中へと仕舞った。



「奥の部屋を貰う」



その言葉だけを残して、トキはリビングを後にする。



「あの」

「やめとけっちゃ、無駄だっちゃ」



何か説明が欲しいと掛けた声は軋識に制止される。

まるで事情を飲み込めず、消化不良を起こしたようだと舞織は眉を顰めた。



「何が無駄なんですか?」

「全てにおいて」

「へ?」

「これから慣れるまで大変だろうけど、トキは悪い人じゃないからね」

「は、はぁ」



そうして家族もよく分かっていないらしいトキは、突然やってきたのだった。




そんなわけでトキが零崎家にやってきました。

ここまでで出てきたトキ設定おさらい。

真っ白のスーツを着たトキの服装は紳士服です。どんなんかはご想像にお任せします、が、とりあえず色は真っ白です。
シルクハットを被り、仕込み杖を持ち、出で立ちは紳士そのものですが、特に何を嗜んでいるわけでもありません。
服は一度着たら汚れや値段に関わらずもう着ません。服に限らず靴もハンカチも全て使い捨てです。一つの例外は杖。
容姿は中性的な青年を想像して頂けたらと思います。色素の薄い伸ばし放題の髪、きめ細かな雪のような肌の持ち主。
声は澄んでいるけれど圧力の掛かった聞くに耐えない声色をしています。
そして瞳は何をも映さない鬱状態、靴は素足に直に履く不精者のようです。

うん、こんなもんかな。書きたい衝動に感けて先走り過ぎないようにします、はい。

あ、あと文中に出てきた「バルモラル」ってのは靴の一種です。