ちゅ と小さな音をさせ、触れては離れて、またせがまれて、繰り返し。

教えてティーチャー

「あと瞼、瞼にもして下さいー」

「はいはい」



先程泣いていた事がまるで嘘だったのではないかというほど、舞織は無邪気に笑う。

笑ってキスして、まるでいつもの情事を髣髴とさせる、その赤く腫れた瞳さえもがソレを連想させた。


軋識は、痛々しい赤さに詫びるように目尻に唇を落とす。

くすぐったそうに、けれど嬉しそうにソレを受ける舞織を、甘やかすように、もう一度。


ふと視線を感じて見遣れば、舞織がこちらをじぃっと見つめていた。



「…な、何だっちゃ」

「わたし、軋識さんのキス、好きです」

「…他にもされた事があるような言い方だな」

「そんな風に取っちゃヤですよう、わたしは軋識さんだけです」



そう言って、今度は舞織が唇に触れる。

食むように口付けて、更に舌でぺろりと舐めた。



「軋識さんは、優しいキスをしてくれるんです」

「…そういう事言うなっちゃ」

「今は詫びるように、口付けてくれてる」

「舞織」



もう言うなと唇を塞いで、誘われるままに舌を絡める。


こういうのは凄く苦手だ。


自分が自分でなくなるような、見たくないもう一人の自分を見るような気がして、嫌だった。

けれどそれだっても、舞織が泣かないのなら…こうしてふわふわと笑うのなら…と思ってしまう。

それすらも、そんな自分は、愛憎相半ば、だ。



舞織が甘えるように首に手が回して、細い指先は悪戯するように髪へと絡んでいく。

嗜めるように耳を擽れば、くすぐったそうに肩を竦めて、それから深く深く…


唇を触れ合わせて、舌を行き来させて、その合間に小さく呼吸して。


舞織は、甘えるように擦り寄って、体重を掛けるようにして圧し掛かってきた。

さして重みはないものの、願うままにベッドに沈み込めば、舞織は猫のように軋識に頬擦りした。



「ちょっと…ムラムラしてきちゃいますね」

「はは、確かにな」

「したいのは山々ですが…」

「まずは補習を終えてからだな」

「がんばります」

「ああ」



こうしてまた解決しなくてはならない問題が増えてしまったものの、こういう事ならばいくら増えたところで問題はない。

これからの休み、存分に頂こうというものだ。


舞織は、よしと気合を入れ直して、体を起こした。

先程まで軋識が座っていた椅子に腰掛け、置いてあった眼鏡に手を伸ばして掛けてみせる。



「似合いますか?」

「ああ、次のプレイは眼鏡で決まりっちゃな」

「うふふ、やっぱり軋識さんはえっちですね」

「…男なんて皆そんなもんだっちゃ」



そう言って、舞織の手から眼鏡を受け取った。

意気込むように腕まくりをし、キーボードに手を置く姿を見て、それから時計に目をやった。


時刻は朝の七時前。

まだまだ間に合う。